小説
□真夜中、独リ遊ビ
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未だ馴染めぬ薄い枕と簡易ベッドの寝心地の悪さ…。
そして、静か過ぎる室内に響く小さな寝息が一つ…。
10年後の世界へ来てからというもの、獄寺が正面に眠れた事など無かった。
始めこそ慣れない環境の所為だと思っていたが実際は違っていて…。
その原因が最近になって漸く理解した獄寺は一層眠れなくなった。
(明日も修行があるってのに…)
自分の為に用意された二段ベッドの下にて胸中ボヤきつつ洩らす溜め息…。
今日も小さな寝息が上の段から聞こえてくる…。
この寝息が気になって仕方無い…。
そう獄寺の眠りを妨げる要因の一つは、この寝息なのだ。
もちろん耳障りで眠れない訳では無いのだが、どうにも落着かない…。
―――いや、落着かないだけなら未だしもバクバクと鼓動が高鳴って興奮しているものだから始末に負えない…。
そんな訳で又一つ溜め息を洩らして獄寺は寝返りを打った。
(あぁ…、今日も眠れねぇ…)
そう思い再び溜め息…。
眠りたいのに眠れない苦痛…。
そして鳴りやまぬ耳障りな自身の鼓動…。
何故、獄寺がこんな状態になってしまうかと言えば…だ。
理由は至極簡単…。
同じ部屋の中、寝起きを共にする人物というのが獄寺にとっての想い人であるからだ。
しかも…その想い人というのが又、曲者で…。
なんと獄寺と同性で同い年…。
その上、獄寺にとって“ボス”であるから困り物…。
単なる想い人だったのなら此処まで苦しまなかった事だろうに…。
悲しいかな…。
同性同世代の上司に恋をしてしまった、この現実…。
そりゃあ、獄寺だって始めは迷いましたさ…。
しかし、一目惚れの片思いをズルズル続けて行けば引き際等も見出だせず…。
気付いた時には“恐いけど、大事な友達!”なんて位置付けをされてしまった不幸…。
“不毛な恋”…だなんて自分でも嫌なくらい分かっているさ…。
分かっているけど好きなモノは好きなのだから仕方無い…じゃないか!
そんな訳で悶々とする連日連夜…。
勿論、危機的状況に追いやられている現在…。
“明日も修行だ!”とか、“大切な想い人を守る為に強くなってやる!”なんて気持ちは充分過ぎる程在る。
…在るけれど、やる気と恋慕は別物だ。
心頭滅却を謳えば謳う程、気持ちは愛だの恋だの…果ては性欲なんぞに結び付いてしまって…。
今じゃ大事な修行にすら身が入らない始末…。
―――このままじゃ、マズいだろっ!?
そう思ったのが本日(いや、日付けが変っているので正確には昨日)の朝…。
そして一日いっぱい掛けて考え出した答えというのが…。
―――気持ちを伝えられないなら、せめて好きな人の可愛い寝顔を見ながら一発ヌいてやろう!
…なんて、阿呆なモノであった。
我ながら寂しく愚かな考えだという事は十二分に理解している。
けれど思い立ったら行動せずには居られず…。
「よしっ…!」
漸く決心の付いた獄寺はパジャマ代わりに着ていた白いTシャツと黒いスウェットズボンを下着ごと脱ぎ捨て、静かにベッドを抜け出した。
それから息も気配も殺して二段ベッドの上へとよじ登り、小さな寝息を立てる想い人の足元に膝をついた。
見つめる先には愛して止まない柔らかな茶髪の愛らしい童顔の少年…。
自分と同い年だなんて思えない程の幼い寝顔に胸をときめかせて獄寺はソッと少年…ツナの体に掛けられた布団を剥ぐった。
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