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□バクテン(伍)
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伍。

ざわめく人々。
鳴り響く鉄の音。
舞い上がる砂埃。

鼻を擽る、
血の匂い。





戦場というものは夢の中でもそう変わらないものらしい。
それはくのいちのよく知った空気。

「にゃは〜やってるやってるぅ〜」

くのいちは、戦場のはずれにある木にぶら下がって戦場を眺めていた。

武田信玄が赤いのの城にきたのは戦が近かったせいらしい。
慌ただしくなってきた城内を言われたとおりのんびり眺めてたら忍にひっ捕まって、ここまで引っ張られてきた。気づけば開戦の合図。
それで今に至る。

城に置いといたままに出来ないからってこの仕打ちはないんじゃないかな。
先程まで縛り付けられていた縄をちらりと見る。
まぁ、本気でやってるわけじゃないみたいだけど。その証拠にくのいちの武器はそのままだ。

見たところ、武田の勝ち戦のようだし。
端から見ても、戦力差は明らかだった。

ってゆーか、
「あいつデタラメすぎ…」

くのいちの世界の武将達もた大概出鱈目だったが、夢の中とはいえとんでもない光景だった。

槍を一振りすれば、人が数十人吹き飛ぶ。

「うわっ、なんかでた!」

赤いのの振るう槍の先から炎のようなものが溢れ出る。
はたして、戦いの激しさがくのいちにそのような印象を持たせただけなのかどうか。

「ん?」

その時、火薬の匂いが鼻を掠めた。


戦場からではない。


すぐに気を巡らせると、森の木々がざわめいているようだった。
くのいちのいる場所から少し離れた木立がざわりと揺れる。


「伏兵じゃん…」

用心深くあたりを探ると、そこかしこに敵方の兵の姿が見えた。


戦力差は罠で、戦場側面からの奇襲が本命といったところか。

さて、どうする?

「タダ働きは好きじゃないんだけどなぁー」

ぶらぶらと木に足をかけて考えるポーズ。
そんなことをしているうちに、森の中に殺気が満ち満ちてきた。もう目を凝らさなくても兵士の姿が確認出来る。

「ま、ご飯代分くらいは働いてもいいかなー」

今日の朝ご飯に出た出汁巻き玉子が美味しかったから。
そんな理由でくのいちは自分の武器に手を伸ばした。
じわりと手に馴染んだ武器を握るのと同時に木を蹴って兵士の集団の中へ飛び込む。
華が咲くように血が爆ぜた。

「じゃじゃ〜んっ!」

木々の間を縫うように斬る、舞う。

急な乱入者に兵士達は皆狼狽えた。
統率が取れないまま、見えない敵に武器を振るう。
障害物の多い場所での戦闘はくのいちの得意とするところだ。
おまけに、敵は浮き足立ってる。奇襲するはずの自分達が襲われるなど考えもしなかったろうから。自分達を襲った兵力だって把握は出来ていないだろう。
混乱に乗じて数を削ろう。

「お覚悟ー!なんちゃって★」

近くの敵を片端から倒す。が、兵の数が減らない。

何人隠れてたんだこいつら?

「ちょっともー、さっさと帰りなよねー!」

全体の統制がとれ始めている。長引けば不利な戦いだ。
夢とはいえ、討死するなんて寝覚めが悪そうにも程があるだろう。

移動するうちに開けた場所に出てしまった。場所を変えようと身を翻したその時だった。
草村の影からひとりの兵士が飛び出してきた。

「っ、た…」

刃が右腕を掠める。

刃の触れたところがどくどくと脈打った。



何これ、全然夢じゃないじゃん。普通に、痛いし。



一瞬思考を戦いから切り離してしまった。
次の瞬間、目の前に敵兵の刀が現れる。


目の前に広がる、

紅。



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