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□バクテン(陸)
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「くのいち殿」

昼下がり、城の庭木の上で昼寝でもしようかとうとうとしていた時だった。
なんだろうこいつ、犬みたいな能力でもあるんじゃないだろうか。

「あんた犬?」
言ってやった。

「団子の串が下に落ちていたでござる」

にゃ、不覚…

「兵の訓練はどうしたのよ」

「今日の分は終わりでござる」

「ふーん…で、何でこんなところにいるのよ」

「某、どんぐりを埋めようと思い」

「どんぐり?」

ちらりと下を見ると、幸村の手にはどんぐりが沢山握られていた。
城の裏手で拾っていたものだろうか。

くのいちに向かってにへらと笑うと、幸村はしゃがみ込んだ。

くのいちに用事があるわけじゃないなら、話しかけなきゃいいのに。

そのまま放っておくと、がりがりと地面を掻く音がしてきた。



がりがり。

がりがりがり。

がりがりがりがり。




…うるさい。

「幸村、何してんの」

「どんぐりを」

「それは聞いた」

ひらりと木から飛び降りて、幸村を上から覗きこむ。
手にはそのへんで拾ったような枝が握られていた。

「にゃに?そんなんで穴掘る気?」

「うむ」

「全然進んでないじゃん。それにもっと涼しいところに埋めないと保存食としての意味がにゃ…」

「食べるわけではないでござる…」

「はら、そうなの?」

肩を小さくして縮こまった幸村に向かい合ってくのいちも座り込む。
幸村の足元には大小様々のどんぐりが散らばっていた。

「じゃ何すんの」

「埋めると、芽が出るのでござる」

「はぁ、出るかもね」

「育つととても大きい木になるのでござる」

「かもね」

「木は、長い時間が過ぎてもずっとそこにあるのでござるからして」

「そりゃ、そうでしょうね」

「きっとずっと残るでござる。某がいなくなっても、」

「……」

何ソレ。




「まぁなんと言うか、兎に角、唐突にどんぐりが埋めたくなったのでござる。」

「…」

何、なんか腹立ってきた。






「何よソレ。自分が生きた証を残したいとかゆう下らないアレなわけ?」

「くだっ…!!」


「下らないわよ。」

ふんと鼻をならして真っ赤な顔を上げた幸村を見返す。

泣きそうな顔して睨み返してきて、益々イライラした。

こいつはこの戦国でいなくなる気があるんだ。
馬鹿みたいに正義の為とかに戦って、馬鹿みたいに死んじゃう気なんだ。




あの人みたいに。


「馬鹿みたい、そんな覚悟。」

一際キツく睨みつけると、幸村はぐ、と詰まった。

その姿を見てから、立ち上がってひらりと木の上に飛び乗る。
そのまま隣の木を伝って飛び去る。

「くのいち、殿…」

後ろで幸村が呼んでいた気がしたけれど、くのいちはもう興味がなかった。

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