少年陰陽師/キリリク
□奇跡の夜
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「……貢ぎ物…?」
「違うわ!そういうんじゃないのよ!」
「………そうか…」
寡黙な六合は、訳あって安倍の邸に居候している、藤原の姫・彰子に詰め寄られていた。
しかも、出仕中で本人不在の昌浩の部屋で。
「だから、昌浩が喜びそうなものをあげるのよ。
六合、昌浩の髪止見た?あれ、もっくんがあげたものらしいわ。
昌浩ったら、片時も離さず身につけてるんですもの。」
たしかに…と記憶を呼び覚まして考える。
昌浩は今年の誕生日に、騰蛇から美しい髪止をもらったと喜んでいた。
しかし、正確には誕生日当日ではない。
昌浩が14を迎えた当日、あの白い物の怪はどこにもいなかったのだから。
――フと、灯も付けず、暗い部屋で一人膝を抱えて蹲る少年の姿を思い出し、
六合は胸に鈍い痛みを感じた。
『あの髪止は…昌浩にとって、嬉しいなんて範囲のものじゃないだろうな…』
騰蛇の手作りなんだと、本当に嬉しそうに語ってみせた愛しい少年。
あの笑顔は、自分にも向けられるだろうか。
「昌浩が好きなんでしょ?
だったら心を掴んでおかないと!」
『………すき…』
この感情が愛情なのかは六合本人にも分からない。
分からないが、昌浩に何かをあげる…という行為は、何か意味があるもののような気がする。
「そう、なら何をあげるか考えないと。ここからは六合のお仕事よ?」
…この少女、煽るだけ煽っておいて放置する気らしい。
六合が自分で考えないと意味がないのよ、と言いながら少女は昌浩の部屋を去っていった。
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