その他

□秋、晴れ木漏れ日
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あたしが妖怪にさらわれたりしても殺生丸様は必ず助けに来てくれるの。
だから、一度やってみたかったの。


「りんはー」
《りんはー》


返ってくる自分の声
やまびこだ。
その傍らには自分より背の高い殺生丸と老妖怪の邪見がいた。
その邪見は呆れた顔をしていて、殺生丸はりんを咎めようとしていた。



「殺生丸様が「りんうるさい」…はい!」



殺生丸様が…?の続きはと気になるところ
勿論やまびこは「殺生丸様」だけが返ってきた。自分の名前が出て、気にならないのだろう、と。ちらり視線を向けるが気にしてはいないらしい。

(……今更りんが殺生丸様の事をとやかく言う程ではないか)

多少のため息混じりを加えながら、邪見は殺生丸様と阿吽に乗るりんの元に戻った。




ぱちぱちぱち…


「はあぁー…」

「……ん?、どうしたりん?」


焚き火にあたりながら、悩ましげにため息を付くりん。そんなりんに気付いた邪見に慌てる様子もないまま、小さく「何でもない…」とこぼした。



ガサ…


「殺生丸お帰りなさい♪」


茂みの中から現れた主にりんは迷う事なく駆け寄る。そんなりんの頭を二度撫でるなり、木の幹に背中を預けて座った。

何も悩むことではないだろう。そう思い掛かったが、殺生丸様がりんから離れていったその後、ふとりんに視線を戻した



(…!)

一目で解った。
りんが無理して笑っていることを


(りんお前、…何があったのじゃ)



その視線にりんがこちらを向いた。今度は邪見が自分の様子を見ていた事にびっくりしていた様子で、殺生丸様の処に駆け寄った。


「殺生丸様、寒いからお側にいてもいい?」


りんの気配に気付いた主は肩にかかっていた尻尾を降ろし、何も言わずに、「ここへ」と差し向ける様に膝に視線を落としていた。
そこへりんが半ば照れくさそうに膝へ頭を乗せた。と同時にふわふわした尻尾が、りんを包む前に。


『…何も言わないで』


そう口元が言っているよう、邪見には見えた。主は何も気付いていないように目を閉じた。邪見は言葉にしたかったが出来なかった。それはりんが閉ざしてしまったから。



(主よ、りんは…りんは…―)



やはり悩んでいる。いたたまれなかった。こうも側に居るというのに何もしてやれないのが、笑顔は絶やさない。でもそれは隠した想いを隠すための手段。



早朝、日差しがさしこむ前にりんは度々起きていたせいでとうとう目が覚めてしまった。

(顔―…洗ってこようかな……)


殺生丸のふわふわしたのを寄せて、余計動いたら殺生丸様起きちゃうから、腕と足で挟まれているところから後ろに下がって何とか脱出することに成功。
身軽な身体は木の根からぴょん、と地面に降り立ち、近くで流れる河に向かった。
その河まで少し遠いが、石の上を歩いて、なんとか水面に辿り着く事が出来た。水面に写る自分の顔、頭はボサボサで手は切り傷で汚れていて、服も綺麗なものではない。

殺生丸さまはどう見ても綺麗な存在。



(……変なの)


こんなむず痒い気持ちが何なのかわかったのは最近のこと、だから余計に悩ましげになる。
顔を洗うつもりが、何だか水面に映る自分が嫌で足で水を蹴った。そしたら、勢いあまり滑ってお尻を打った挙げ句衣が水で汚れてしまった。


そうなったら、またさっきよりも汚れた自分が写ってしまう。そう思い、りんは暗い顔でとぼとぼと森林に戻った。


「……こんなんじゃ、嫌われちゃうかな………」


さっき転んだ水滴が涙みたいに頬を伝う。邪見様には気付かれるし、益々暗くなるばかり。
りんは迷っていた。こんな格好で戻ったら、殺生丸さまに迷惑を掛けてしまう。かといって、どうする事も出来ない。


「…そうだ」


りんは何か思い付いたのか、阿吽の元に走った。


グルル…

「阿吽…起こして御免ね。ちょっとこれ借りてくよ?」


よしよし、と頭を撫でてやるとまた気持ち良さそうに眠りについてくれた。りんは阿吽から取った赤い布衣を抱え、殺生丸様達がいる場所よりちょっと離れたところで回りを見渡し、誰も近くにいないことを確認して帯をほどいた。
湿ってるとは言え、水を含んだ帯や、衣は少し重い。赤い衣を身体に巻いて衣や帯が乾くように木の枝に投げ掛ける。


カサッ

「りん、なにを――」

「殺生ま、る…さま」

見つかってしまった。殺生丸さまはあたしをみて少し驚いていたけど、何だか不機嫌な顔で近づいてきてあたしを見下ろしている。


「ぁ、…あの、さっき河に滑って落ちちゃって……」


苦笑いしてみせるけど、うまく目が合わせられない。とうとう視線は下に向いて、目をギュッと閉じてしまった。

「衣をつけたかったのか」

「う、うん」

ハッと目を開けて返事をすると殺生丸は新しい衣をてきぱきと着付けさせ
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