短編集@

□冬の一番星
1ページ/1ページ


※たまに始まる銀さんと幸村の奥さんの話
※実は去年の8月にバシッと書いた話の続き
※暇だぜ!という方は読んでやって下さい













今日はいつもより風が強くて、雪が降りそうで、割と寒くて。
でもそれは一般的な冬の日な訳で特に変わった風景ではないのに、見つけてしまった異質なもの。

「奇遇ですねお侍様」
「………成仏しきれなかったのか」
「私まだ死んでません!」

夏に出会った奇怪な女とまた遭遇してしまったのは、神楽があんまん食べたいとか言い出して俺を万事屋から追い出すからだ。畜生!あの時の俺!何故チョキを出した!

「相変わらずこの街は不思議なものが多いですねぇ」
「俺にとっちゃあんたが一番不思議だ」
「そうですか?」
「そうです。で?何しに来たんだ」
「城下町を歩いてたら勝手にたどり着いてしまいました。どうしよう、佐助に怒られます」
「この前みたいに帰りゃ良いだろ」
「堪能してから帰ります」
「………………」

長かった髪は少しだけ短くなっていて、細い首には切り傷がついていた。かさぶたが出来ている所を見ると、数週間前の怪我ってとこだな。膝とか指なら分かるが、普通そんなとこ怪我するか?

「……気になりますか?」
「どんなプレイしたら首に傷がつく訳?」
「ぷれい?……この傷は巫様につけられました」
「んだソリャ」
「凶王のとんがり具合に怒った巫様が弓を西軍に放ってきたのです」
「…………」
「旦那様に当たったら大変ですし、ほぼ私が吹き返しました」
「アンタ無敵か」

扇なるものがありましてそれで吹き返しました、と笑顔で言われても分かんねぇから。ビックリ人間ばかりの世界に銀さんついていけねぇから。

「徳川も豊臣も、早く互いに手を取り合えば良いんですけどね。凶王のとんがり具合は、あの温厚な巫様が怒る程ですから。"三成さんはホントに頭が固くて困ります!目つきも悪いし口も悪いし!なんて事でしょう!"。…巫様にソックリじゃないですか?」
「知らねぇよ!!!」
「今度連れて来ますね」
「全力で拒否するわ」
「まあまあ、そう言わず」

この人の背景は全く分からないが、のうのうと生きているだけでは無いらしい。多少は戦いの場に身を置いているからこそ、知らず知らずこの街に浸りたがっているのだ。なんて事ない冬が広がっている平和な風景を歩きたくて、だから何かの手違いでまた来てしまったのだろう。
この人の全てを知るには情報が少なすぎる。かと言って全てを知るには得体の知れない何かがありそうで、あまり深くは追求したく無いが、それでも興味はあるのだ。今はまだ、降ってきたこの雪みたいに小さくて、手にのせれば簡単に溶けてしまうぐらい儚いものだけど。

「……あんたの旦那様とやらなら見てみたいわ」
「え?」
「いっぺんどんな奴か見てみたい」

話の中に必ず織り込まれてくる"旦那様"が、一体どんな人間なのか。この人と同じぐらいブッ飛んだ人間なんだろうなあとは思うが、こんな嫁を相手にするんだから常識ぐらいは持ち合わせてるだろう。

「私の旦那様は、殴り合いが大好きです!」
「はいっ、前言撤回〜」

常識ないじゃん!
もはや常識ないじゃん!

「鍛練と団子も大好きで、あ、そうそう!今日は団子を買いに町まで下りたんだっけ」
「ならさっさと帰らねぇと」
「そうですね、帰らないと」

では失礼致します。
一言そう言い残して、綺麗な朱で染められた羽織を翻し街中へ消えていく。その後ろ姿が小さくなった時、あの人の華奢な右手がパチンと指を鳴らした。
俺が立ってる位置からして、雑踏で鳴らした音など聞こえる筈が無いのに、確実に耳に届いたのだ。それはそう、風に乗って確実に届いた。
その直後だった。歌舞伎町を底から揺るがすぐらいの突風が3秒程吹き荒れて、やがて余韻を残しながら消えていく。もちろん、あの人の姿は目を瞑ってしまった間に居なくなっていた。

翌日の新聞に、謎の突風について書かれていた。なんて事ない、平和な冬の風景だ。











**********

このシリーズ続きそうな予感。
でも予定は未定。




(111024)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ