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□双子座流星群
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もうじき日付が変わろうかという深夜。
一階の居間にいる両親の様子を見に行ったジェームズがそっと階段を上ってきた。
「どうだった?」
「起きてる。けどたぶん大丈夫だ、話し込んでたから。」
「行くの?お兄ちゃん。」
「あぁ、しっかり上着着なリーマス。」
「でも…雨降ってるよ?」
心配そうなリーマスの言葉に、初めてジェームズは困ったような顔を見せ、そっと窓を開けた。
天気予報では朝まで続くらしい雨と冷たい外気が、ジェームズの決心を鈍らせていた。
「…行こうぜ。」
「シリウス、」
「今夜じゃなきゃ見られないんだろ?行かなかったら絶対後悔する。さっきより小降りになってきたし、やむかもしれないじゃないか。」
言うが早いかシリウスは、リュックを背負うと窓枠に足をかけた。
先の先まで考えを巡らせるジェームズと、まず行動にうつしてみるシリウス。
異なる二人の性格が、悪戯の成功率を上げていた。
「…そうだな。よし、行こう。お兄ちゃん達を信じろリーマス!」
「…うん!」
まず子供部屋の窓の下にある物置の屋根に降りて、そこから地面へ。
幼いリーマスが一緒に行けるように、二人の兄は力を合わせて弟を助けた。
小声で大騒ぎしながらなんとか地面に降り立った三人は、一台の自転車に乗り込むと小学校の裏の神社に向かう。
正確には、小高い丘にある神社の更に上。
一面が芝生のちょっとした広場がある。
寝転んで天体観測するにはぴったりの場所だった。
自転車で行けるのは丘の下まで。
広場まで上るには神社の石段を使うしかないので、三人は白い息を吐きながら一段一段を踏みしめた。
途中で疲れてしゃがみ込んでしまったリーマスは、二人の兄が交代でおぶった。
もとより小さなリーマスが一人でのぼりきれるとはジェームズもシリウスも思っていなかったので、覚悟はしていたもののたどり着くには一苦労だった。
「はぁっ!着いたぞリーマス!」
「ありがとうお兄ちゃん!」
「寒くない?」
「うんっ大丈夫!だってね、雨もう降ってないよ!」
「あ…!」
シリウスの背中から降りたリーマスの言葉で、二人は初めて雨があがっていることに気がついた。
これならいけるかもしれない。二人の胸に希望がむくむくと沸いてきた。
「よし、シート出せシリウス!」
「おぅ!」
準備してきたビニールシートを広げて、三人で川の字に寝転がる。
二人の兄がリーマスを挟む格好だった。
揃って見上げた空にはまだ雲が多く、だがその切れ間から時折星が姿を覗かせていた。
「お兄ちゃん、どっち見るの?」
「双子座流星群だから…あっち、かな。」
「ふたご座?」
「双子の兄弟のお星さまだよ。」
「じゃあ、ジェームズとシリウスの星だ。」
「え?」
「ジェームズとシリウスはふたごみたいね、っておかあさんが言ってた。」
「あぁ…。」
母親じゃなくても、二人で悪知恵ばかり絞っている彼らのことを双子のようだと言う大人は多かった。
リーマスの言葉にシリウスは納得したのだが。
「違うよリーマス、兄弟の星は僕とリーマスの星。」
「どうして?」
「だってシリウスはほら、あそこに居るから。」
そう言ってジェームズが指差した先には、ちらほら見える星の中でひときわ輝くそれだった。
「あれ、シリウスっていうの?」
「そうだよ。」
「シリウスはお星さまなんだ!」
きれいだねぇ、と笑ってリーマスは、双子座ではなく夜空のシリウスをじっと見つめだした。
自分の名前の星を弟が気に入ってくれたことはくすぐったいような嬉しさを感じるシリウスだったが。
「俺だけ仲間外れかよ。」
「え?」
「兄弟星なのに。俺だけ一人だ。」
「なぁんだ。いいじゃないか、同じ空にいるんだ。っていうか、そうしないと今度はリーマスが仲間外れだよ?双子座なんだから。」
「…ジェームズがはずれればいいだろっ。」
「っあのなぁシリウス、」
子供っぽいシリウスの態度にジェームズが呆れて笑ったところで、夜空を見つめたままのリーマスが言った。
「じゃあみつご座にすればいい。」
「え?」
「あそこにふたご座があるでしょ?それで、あっちにシリウスがいるでしょ?だから、あそこからシリウスまで線でむすんで…ね?みつご座できたよ!」
「っはは、そりゃあいい!」
腕をいっぱいに伸ばして出来たばかりの三つ子座を指差してみせるリーマスを、ジェームズはぎゅっと抱き締めた。
シリウスも笑いながらリーマスの髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「ありがとなリーマス!」
「う、うん…ちょ、っと、くるしいよお兄ちゃん…!」
「だめー!はなしてあげなーい!」
「えぇえ…っ?」
「ずるいぞジェームズ、俺だってリーマス抱っこしたい!」
「わわっ、くるしいってばぁ…!」
三人のはしゃぐ声が、広い夜空に響いた。