短編

□5月5日、応接室にて。
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 応接室のドアが開く音が聞こえて、雲雀は顔を上げた。
 もっとも、その気配には最初から気づいていたので、驚きはしない。
「ノックくらいしなよ、って何回言ったらわかるの?」
「あ、わりーな」
 悪びれもせず、山本は言う。
「まったく、君は」
 雲雀はため息をついた。
「それで、何の用なわけ」
「んー…?」
「今日は休みでしょ」
 もうそろそろ終わるとはいえ、今はゴールデンウィーク。それに、部活も休みのはずだ。
「あー、まあな。休みだけど、でも雲雀は休みじゃないんだな」
「見ればわかるでしょ。いいから質問に答えなよ」
「え、…と、いや、特に」
「ふうん? まあいいや。僕の邪魔はしないでよ」
「あ、おう…」

 しばらく沈黙が続く。
 こういう沈黙が、山本は案外苦手ではないと、雲雀は最近知った。
 彼はきちんと時と場合をわきまえていて、必要以上にうるさくして雲雀の集中を乱したりはしないのだ。
 最初は雲雀も、その落差に少なからず驚かされた。
 じゃあ何故、いつもいつも喋ってばかりなのかと、前に訊いてみたことがある。
 すると「みんなが心配するから」という彼らしい答えが返ってきて、ここでも他人優先かと呆れたものだ。
 まあとにかく、しばらくの間、雲雀が仕事をする音しか、応接室には響かなかった。


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