ShortStory

□生きたぬくもりより死のぬくもりを愛す
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孫が父上を喰い殺した。
頭の後ろから肩甲骨と右腕を喰った。
死体からは腐臭が漂っていて、俺は思わず鼻をつまんだ。

――あぁ、また焼かなきゃ…

俺の頭をよぎったのはただそれだけ。
白い薄い布で父上の体を包んで、俺はその上から覆いかぶさってみた。
父上の体は冷たくて。
ただひたすらに冷たくて。
失われた後頭部に、背中に指を布越しに這わせてみた。
思わず、笑いがこぼれた。

――冷たいな…冷たい、冷たい……それに…臭い。

それでもなお、俺は父上の失われた部分に指を這わせた。
生きていた時の父上は俺の言うこと、やることにすべて歯を立ててきた。
触ることも許されなくて。
なれあうことなんてなおさら無理だった。
布越しに伝わってくる冷たさは死の体温そのもので…。
それでも…俺は、生きているときの体温よりも…。

――心地良い…。

と思ったのだった。
喰い殺した孫はとてもつぶらな瞳をしていた。
俺はそんな孫を一回睨みつけてから、微笑みかけた。

ありがとう

と一言だけ呟いて、俺は父上を暖炉の燃え盛る炎の中に投げ込んだ。



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