入口∝短篇集

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僕は一体どこにいるのだろう。バイト先の先輩はどこに行ったんだ?彼が小学生の頃から飼っているらしいシェパードを僕はなぜ知っている?僕は、そうコンビニで弁当を並べていた。iPodを耳に突っ込んだまま。

ヒトの記憶なんていい加減なものだ。断片化され、バラバラになっていて、過ぎてしまえばもはや順不同だ。大事な記憶が酷く無造作に置かれていたりする。きっと粗大ごみのような記憶の渦のなかに、昔大事にしていたスヌーピーのバッグが紛れていたりするんだ。ランドセルの下敷きになり、助けてやれなかったセキセイインコも。

僕は大学生になって、いかに自分の存在が馬鹿馬鹿しいものかを知った。まあ故に有意義に出来るのも自分なのだが。今は、そう、青春の闇というやつだ多分。学ぶ事は、素晴らしいこと、そんな風に目を輝かしていた一年生時代が痛々しくさえ感じる。

日本文学の危険性、そんな卒論のタイトルを真剣に考えてるうちに、ふいに笑いが込み上げて机を叩いて笑った。

いかに死ぬかを考えるのが人生だ。そんな事を言っていた親父もとうとう肺ガンには勝てず、病が胃に転移して死んだ。

タバコと工場労働一色だった親父の一生は何だったんだろう。趣味は下手くそな絵葉書を描く事だった。

大学の図書館で少年心理学Bの課題を仕上げる。その後合コンで女の子と出会い、そのうちの可もなく不可もない女の子と遊んだ。多分お互い二度と会うことはないだろう。楽しかったが、なんとなくそんな空気だった。朝方帰ってくると少し卒論を書いて寝た。夕方からはまた授業に出席する。朝焼けは馬鹿正直なほど眩しく、神々しい。大昔の人が、太陽を神だと讃えたのがよくわかる。

しかし完璧なので、僕は少し苦手だ。僕は完璧な物が苦手なのだ。
 

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