お題消化記念リク

□ ただ、おまえだけを
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その衝撃に、身動き一つできなかった。




オレは、今まで一体何を見て来たんだろう。





こんなにも近くにいたのに。

こんなにも近くにいたから。


何一つ気付かずにいた。




どれだけ傷付けて来たのかさえも、分からない程に。






薄暗い部屋は、その温度を無くしたまま。

それでも静かに時を刻む。


まるで過ぎ去った月日の長さを知らしめるかのようで。


胸が痛い。




ベッドに座り、両手で髪を掻き上げるように頭を抱え。


オレは、目に入った本棚に手を伸ばした。




古ぼけた表紙が時間の経過をまざまざと見せ付ける。


泥だらけのユニフォーム。

弾けるような幼い笑顔。


手にしたアルバムは、懐かしい光景を鮮明に今に残し。


遠い記憶を瞬く間に呼び覚ます。





マウンドに立つあの頃のオレの背中に響いた声は。

込められたありったけの信頼と勇気が胸の奥に突き刺さる程、どこまでも力強く。



楽しい時も、嬉しい時も、辛い時も、苦しい時も。

何かを見失いかけた時も、決断に迫られた時も。



どんな時も、そこにあった。





何度救われただろう。


離れても、なお。




出会った頃から変わらない気の強さとひたむきさで、進むべき道を照らし出すかのように。



あいつはいたんだよ。


いつだって。






脳裏に浮かぶのは、大人びた表情で儚く微笑む傷付いた清水の顔。



あいつの顔を曇らせる元凶が、あいつを実は一番必要としてきたのかもしれない。



幼なじみの檻に護られ、失う可能性なんて、考えもせず。


ただ当たり前のように。







その胸に伴う痛みをひた隠しにして、オレの背中を押すその掌は。


いつからかオレの手にすっぽり隠れる程になっていたのに。



気付きもしないバカなオレは、あいつに守られてばかりいる。




「何やってんだよ…」




胸の奥が締め付けられる。



傍にいろと腕に閉じ込めたくなるような、焦りにも似たこの感情の名を。



オレは、知らない。











お前が強がるから。


だから、オレは。







伝えきれない程の想いを、たった一言にのせて。




お前に告げる。



オレンジに染まる世界で、今。






-end-









 

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