鉄のラインバレル

□泣いていいんだ
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俺と榊が出会ったのは15歳の夏、俺は姉さんの殺害容疑をかけられ樹海へと逃げ込んでいた。
その後、逃げ込んだ洞窟が崩れ、ヴァーダントのファクターになり榊と出会ったのだ。

榊のサクリファイスとは模擬戦で戦ったが、所謂ヴァーダントと兄弟機にあたるらしく似たような装甲と装備を持っていた。
ファクターとなったのも同時、同格のマキナ、大人達も同等の戦いだろうとたかをくくっていた。
しかし結果は俺の惨敗、流れるように動くサクリファイスの動きに翻弄され、一太刀も浴びせられずに模擬戦は終わった。

「森次クン、死んでも良いって思いながら戦うなら、私とサクリファイスには勝てないよ」

模擬戦のあと、ロッカールームの前で会った榊はそう告げて立ち去った。
そう、俺は死んだって良いと思いながら戦っていた。
ヴァーダントのパワーを振りかざし、何も考えず本能のままに。



「……次クン、森次クン!
聞いてる?私、委員会があるから森次クン先に帰ってて。
私は電車で寮に戻るから」

「あ、いや。
すまない……、解った気をつけて帰れよ」

「うん、じゃあ」

榊はチェック柄のスカートを揺らし、廊下でまっていた友人と立ち去っていった。

そう言えば榊は学級委員だったな、ぼんやりと思い返して森次は窓の外に広がる夕日を見ていた。
携帯が鳴り、迎えの知らせを受けると荷物を持って外にでる。

「鞍馬さん、榊は委員会で遅くなるそうです。
電車で帰ると言っていました」

「そうですか、わかりました。
では車、出しますね」

運転手の鞍馬さんは40代の小太りで、いつも白い清潔そうなハンカチで汗を拭いていた。
声も優しげで、正直こちらが申し訳なくなる時もある。
車は正門から出て体育館裏にある裏門側の道路を行く、いつもと変わらない何気ない風景を見つめていると違和感を覚える。

「榊……、鞍馬さん!すいません、車を停めてください」

「え?あぁ、はい」

「すいません、ちょっと待っていて下さい」

車が停車すると、ドアを開け森次は飛び出す。
確かに一瞬見えたのだ、無表情のまま体育館裏に立つ榊が、ファクターである榊が負けるわけがないが、気になったのだ。



「で、沙由と美希を解放してもらえない?
この集まりに関係ないでしょ」

体育館裏で葉流は腰に手を当て、堂々と相手を睨みつける。
ファクターであるため、ちっとやそっとじゃケンカに負けやしないし、痛くもない。
しかし高校で作った友人を巻き込むのは心が痛んだ、早く2人をこの状況から助け出したかった。

「バーカ、てめぇをヤってやるのにこれぐらいハンデが必要だろうが。
てめぇがバケモノじみてんのは、痛いぐらい知ってるからな」

「そうね、アナタ達弱いものね。
沙由、美希、ちょっとだけ待ってて。
怖かったら、目を閉じて耳を塞いでいれば良いから」

「葉流……ごめん、私のせい……」

「ごめんね、葉流」

沙由を人質に、美希に私を呼びに行かせた。
2人が気にすることなどないのだ、隙を見せすぎた私が一番悪かったのだから。

「じゃぁ、抵抗すんなよバケモノ女。
抵抗すれば、コイツらをヤっちまうからな」

「はいはい、あぁ顔はやめてね。
育ての親が心配して、乗り込んで来るから」

石神社長ならやりかねない、むしろこんな状況を知ったら乗り込んでくるだろう。
迷惑だ、非常に迷惑だ。

「はい、どうぞ」

手を広げ、目を瞑って立つ。
目を瞑っていたって相手がどう蹴ってくるかわかる、うっかり避けてしまえば沙由や美希に危害が加わるため身体から力を抜いた。
さすがにぶっ飛ばされれば、相手もいい気分になるだろう。
ガツンと腹に足がぶつかり、壁に背中を打った。
正直多少の痛みはあるが、何て事無いダメージだ。
複数人で蹴ったり踏んだり、葉流はヤられたいほうだいになっていた、しかし一般のしかも女子である沙由と美希は泣いて止めてくれと叫んでいた。

「うっせぇ黙れ!!」

「きゃあ!」

「やめろ!!」

沙由と美希に向けられた暴力に素早く立ち上がり、2人の前に立ちはだかる。
ブレザーやリボンは土埃で汚れていたし、身体は少々痛んだが、友人2人を守れずにいるほうがずっと痛い。

「2人には手を出すな、お前らの相手は私だ」

「おら、じゃあ相手しろや!!」

振り上げられた腕、顔をやられる。
それだけはダメだ、JUDAのみんなに心配かけてしまう。

葉流は腕をクロスさせ、防御の姿勢にはいる。
後ろで沙由の泣く声が聞こえた、美希は逃げてと叫んだ。
歯を食いしばり目を瞑る、しかし痛みや衝撃が来ることはなかった。
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