もう日も暮れ辺りは黒に染まっていく中、電灯の明かりを頼りに道を歩き、俺たちは家へと辿り着いた

「ただいま」

「お!やっと帰ってきたか。遅かったな」

スヴェンは片手にマグカップを持ちイスにもたれ掛かっていた。察するに相当待っていたように見える

「ゴメンなさい、ちょっと買い溜めしとこうと思って」

「買い溜めねぇ…」

そういうと目線を姫っちから俺に変える

ドサッ

俺はテーブルの上に買ってきた物を置き、すぐさま地面に座り込んだ

「だぁ〜!疲れたぁ!」

「こりゃまた、すごい量の買い物をしたもんだな」

「うん、トレインが買い物に付き合ってくれるなんて年に一度有るか無いかの事だもん、買える時に買っとかなきゃ」

「・・・」

ってことは?つまりは何だ?俺が荷物持ちだったから買い溜めしたって訳?
だからってこんなに大量に買わんでもいいだろ…しかも一人持ち…つーか無理矢理付き合わせたんだろうが!

俺は心の中で文句を言い続けた

「お疲れ様。トレイン」

「いや本当…、かなり疲れたぞ」

俺は白い目で姫っちを睨む…が、当然でしょ♪と言わんばかりの笑みで返してきた。なんか無償に腹が立つんだけど…

「ところでイヴが持っているそれは何だ?」

スヴェンが姫っちの荷物を指して聞く。姫っちはこれも笑顔で答え返した

「これ?これは浴衣だよ」

「浴衣?あのヒラヒラした着物の事か?」

「うん、トレインが買ってくれたの」

「お前が?」

「ああ…」

「………」

スヴェンから少し異様な空気を感じ、気付かれたか?と疑問を抱いたが、あえて俺は気付かぬふりをした

「さてと、それじゃあトレインとスヴェンは休んていいよ、後は私がやるから」

「…え?」

「ちょっと待て!姫っちが晩飯作るのか!?」

「そうだよ」

マジかよ…

一気に空気が重たくなる。
それも当然、姫っちがひとたびその腕を振るえば作る物(料理?)は、まさに食べ物と呼ぶには掛け離れた物体に変わってしまう
形はボロボロのグチャグチャで、味も見た目どおりマズイの一言
さすが、ティアーユの遺伝子を受け継いでいる事はある…が、正直そんな所まで受け継いで欲しくなかったと俺達はソレを食う度につくづく思い込まされる

「いいいいんじゃないかなぁ?イ、イヴも料理の腕を上げとけば後々楽になるし…」

スヴェン、顔が引きつってるぞ…

「まぁ楽しみに待ってなさい」

そう言うと姫っちは夕飯の支度をしに部屋を出ていった

「薬、用意しとくか…」

「何故止めなかったんだ…」

「お前こそ…」

「姫っちが俺の言う事なんて聞いてくれる訳ないだろ…」

スヴェンは少し考えて、それもそうかと納得する

「どうすんだよ?」

「いいじゃないか。試したい年頃なんだろう」

「試したい?どういう意味だ?」

「………」

スヴェンは俺の質問に答えなかった。そして何故か急に話しの話題を変える

「ところで、どうしたんだ?金の無いお前がイヴにプレゼントをするなんて…」

「ん?いや別に、ただ単にいつものお礼って奴だ」

「礼ってなんの礼だ?」

「日頃、洗濯してくれたり、起こしに来てくれたり、…一応飯を作ってくれたりしてくれるお礼」

「ほう、じゃあもう一つ、実はこっちの方が聞きたいんだが…」

「なんだ?」
          . .
「何故プレゼントが浴衣なんだ?」

…やはり気付いていたか

俺は焦らず話しを進める

「姫っちが欲しいって言っていたからだ」

「本当にそれだけか?」

「それ以外何がある?」

「俺が思うにお前は『浴衣だから』プレゼントしたんじゃないのか?」

「………」

「………」

少し沈黙が続いた…が、スヴェンがイスから立ち上がり間は切れる。そしてまた俺に嫌味な言葉を浴びせてくる

「そうだな。トレインには特に食い物の時ぐらいしか感謝の気持ちがないもんな。それ以外プレゼントはありえん」

「おいおい、なんだそりゃ」

「本当の事だろ。だいたい…たまにはお前らの面倒みている俺にも感謝してくれていいんじゃないか?イヴは感謝してくれてるけどな」

「俺だっていつも感謝の気持ちでいっぱいだぜ。てかそんなに珍しいか?」

「ああ、相当な」

「ひでぇ…」
         ・
「とにかく、お前の嘘はお見通しだ」

スヴェンはその言葉を最後に部屋から出ていった

「お見通し…か。やっぱぁ敵わないな、スヴェンには…」

俺はつくづくそう思った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うっ…それ本当に食い物か?」

「しっ、失礼ね…」

テーブルの上にある意味不明な物体…いつもながら見た目がグロッキーな

「と、とりあえず食べて判断してよ!」

いつもそれで腹を壊してきたんだけど…
するとスヴェンが小声で

「ほれ、トレイン味見しろよ」

「お、俺からかよ」

「これはお前の役目だ」

「いつそんな事決めた!?」

「どうせ後で食うことになるんだから、同じだろ?」

「だからってこんな物をなぁ!…!?」

「………」

小声で話していても姫っちには聞こえてたらしく、俯いて今にも泣きそうな顔をしていた

「おい、トレイン!」

「ぐっ…い、いただきます…」

やっぱし俺になるんだな。観念して恐る恐る口に運ぶ

パク…モグモグ

二人の真剣な眼差しの中で俺はひたすらその料理を噛み砕いた、そして

ゴックン…

「………」

「ト、トレイン?」

二人とも心配そうな顔をしているけど
あれ?そこまでまずくない…馬鹿な…

今までの姫っちの料理からは想像の出来ない、なんとも普通な味だった

「や、やっぱり…美味しくなかった?」

特に姫っちはすごく心配していたらしく体が震えている

「どうなんだ?」

「いや…まずくないよ、うん」

「え…ほ、本当?」

おかしいなぁ…見た目は変わってないのに…もしかしたら悪い物食い過ぎて抵抗がついたのか?とも考えてはみるが、スヴェンも食べてマズイとは言わなかった。
 
 
 
 
そして完食
 
 
 
 
「いやぁ〜うまかったぞ、イヴ!」

「そ、そぉ…」

「お前もそう思うだろ?」

「確かに、前よりは断然に美味くなってる」

「断然ってのだけ余計…////」

文句をいいながらも、やっぱ褒められてうれしいのか、姫っちの頬に少し赤みが見える

「うんうん、イヴ、これならきっといいお嫁さんになるぞ!間違いない!」

うわぁ〜出たよ。スヴェンの親バカモード…姫っちの事になるとすぐにこれだ

「わッ、私!台所片付けてくる!////」

バタンッ!

「・・・」

姫っちもそれで照れるなよ…漫才か?

「ハハ!照れちゃって、カワイイよな。イヴは♪なぁ?」

「・・・」

正直キモい(スヴェンが)
つーかスヴェンは姫っちを誉め過ぎなんだよなぁ。そんなに大事なのかね?
 
 
 
 
………
 
 
 
 
当たり前か…たった一人の娘だもんな。例え血が繋がっていまいと、実の娘の様に可愛がってきたもんな
 
 
 
 
ならもし…

俺が悲しませるような事したら…

「……」

やめた。こんな事考えるのは…飯食ってもう眠いし、今日は寝よう

ガタ

「ん?何処へいく?」

「今日は荷物運びで疲れたし、もう寝る」

「お前この後の事はどうするんだ?」

「?」

「イヴが食事が終わったあと、みんなと一緒に祭に行くんだってはしゃいでたぞ。お前も誘われただろ?」

う〜ん、そういやそんな話しもしたような…けど俺は本気(マジ)で眠いからなぁ、誘ってくれた姫っちには悪いが…

「俺、今回パス」

「何故だ?」

「俺は眠いし、スヴェンと二人っきりの方が喜ぶだろ」

「いや、それは…」

「んじゃ。そういう事で、おやすみ」

「お、ちょっ、待てトレイン!」

バタン

俺はスヴェンの返事も待たずにその場を後にする。

そして自分の部屋につくと暗闇の中、すぐさまベットに倒れ込み眠る体勢に入った

「ふぅ、疲れたな」

今日はいろんな事があった

起きた時から

姫っちが起こしてくれた時

姫っちの顔が一瞬アイツに見えた

別に顔は似てない

でも…

どことなく、感じが…

笑い方が、優しさが、怒り方が…

アイツみたいな感じだった

いや今日だけじゃない

ずっと前から感じていた

そしてまたアイツを思い出しさせるように

アイツがいつも着ていた浴衣が飾ってあって

姫っちがそれを欲しがった時

俺はアイツに対する繋がりみたいなものを感じた

もう一度…

偽りでもいいから、もう一度逢いたかった
 
 
 
 
 
 
 
『サヤ』に…

でも…

そうしたら姫っちが可哀相だ

俺のワガママの為の道具として利用する事になる

そんな事…

俺はしようとしていた…いや、今でもしようとしている

このままじゃ俺は姫っちを…

………

スー

俺は眠りについた

またサヤを想いながら

そして、なってはならない事がおこってしまった
 
 
 
 
 
 
コンコン

「トレイン。入るよ?」

ガチャ

廊下の光が俺の部屋に差し込んでくる。その光が目に掛かり眩しくも俺は目を開いた
 
 
 
 
浴衣が見えた
 
 
 
 
そして…
 
 
 
 
その光の中心で立っている少女が…
 
 
 
 
完璧に重なってしまった…
 
 
 
 
彼女に…
 
 
 
 
「サ…ヤ…」

「……え…?」

俺は立ち上がりサヤの幻影に近付く、それが姫っちとも知らずに…

「サヤ、俺はお前にずっと逢いたかった」

そして俺はサヤの幻影を強く抱きしめた。ギュッっと強く

「サヤ…俺は…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ト……レ……」

「ッッ!?」

俺は声の違いに気付き我に返った。そしてすぐさま姫っちから離れる

「ひ、姫っち!?」

「………」

「す、すまねぇ姫っち、寝ぼけてて…」

ここで殴ってくれる方が、怒ってくれる方がまだよかった。でも俺が見たのは…
 
 
 
 
ポタ…
 
 
 
 
頬から流れ落ちる涙

「姫っち!?」

「…サ……か……ない…の」

え…?

「私じゃ…サヤさんには勝てない…の…」

俺の身体は固まってしまった。この言葉の意味…

姫っちが俺をどう想っていたか、俺がした事がどれほど酷い事か、今の行動がどれほど姫っちを傷付けたか、全てが頭の中で強く響いた

「姫……」

「…ッッ!」

「ま、待て姫っちッ!!」

姫っちは振り向き様に涙を残し、すぐさま家から飛び出ていった

俺は、とんでもない事をしてしまった。とんでもない事を…
 
 
 
 
俺は…
 
 
 
 
俺は最低な人間だ…

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