唄ERIES NOVEL
□IRON:BOY/AGAIN[完結]
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「只今戻りました」
一護を大学から送り届けて、一心の部屋のドアを開けた時、そこにいた後ろ姿に恋次は微かではあるが、見覚えがあった。
《IRON:BOY/AGAIN》
「白哉…さん?」
振り返った男は、恋次の記憶にある人とは見違える程大人ではあったが
「久し振りだな、恋次」
と、声を掛けられて記憶違いではない事を確信した。
「お前も随分と大人になった」
「白哉さんこそ。俺、別人かと思いました」
「確かにな、あの頃は…白哉も子供だったからな」
一心にそう言われて、白哉はバツが悪そうに笑った。
「あれ…誰だよ」
胡散臭そうに、一護が覗き込む。
「朽木白哉。ボスと旧知の仲、朽木家の御曹司ですよ」
修兵が一護の肩を叩いて答えた。
「俺…知らねぇぞ」
「まぁ、知らなくて当然でしょうね。此処に居たのは、随分前ですから」
「なんで恋次が知ってんだよ」
「あぁ…、恋次は白哉さんのお気に入りでしたから」
「お気に入り?」
「と、言うより…いい悪戯の的…でしたかね」
「なんか…想像つかねぇ」
「でしょうねぇ、俺だって見違えました」
「親父さんには、散々世話になった。こんな稼業の跡取りが弁護士になるとは、あんたらしいな」
「父と私は、別だ」
「だろうな…嫌がってたからな、親父さんの稼業を」
「此処にいた頃の私は、父が何をしていたのか知らなかった。今思えば…私の無事を考えて、貴方に預けていたのだな」
一心は、訳知り顔で笑った。
恋次は、物腰の静かな…余り表情の変わらない白哉に戸惑っていた。
あの頃は、一緒に…と言うより恋次が必死に後について駆けずり回っていたのに…。
「なんか…白哉さん、変わりました…ね」
「そうか」
「まぁな、恋次の首に犬の首輪を付けて、取れなくなって大騒ぎした頃の白哉じゃあないな」
一心の揶揄うような言葉に、白哉はコホンと一つ咳払いをした。
それを見て恋次はなんとなく安心をした。
その事は恋次も覚えている。白哉はまだ小学生、恋次に至ってはまだ五歳の子供だった。
悪戯で付けた首輪が外れなくなり、弄っているうちに絞まってしまい、苦しくて泣き出した自分に、本人も泣きそうになって必死に外そうとしていた。
恋次の泣き声に大人達が駆け付けて、ナイフで無理矢理切って事無きを得たが、白哉は酷く怒られた。
「白哉さん…。俺にとっては懐かしい想い出ですよ」
「恋次…」
白哉は小さく笑うと、恋次の緋色の髪を撫でた。