短い夢

□さよなら、
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君は消えてしまった。

ただ一言、「約束だ。」という言葉を託して消えてしまった。






ルークの成人の儀が行われたあの夜、共に旅をした仲間達と共に私はタタル渓谷にいた。
みんなルークは生きてるって信じていたから。
(奥底では気づいていながらも、恐らくみんな信じたくなかったのだろう)

彼のいない墓前に向かって語りかけるなんて真っ平ごめんだった、現実を見せつけられてみっともなく泣き喚いたり縋りついたりなんかしたくなかった。
ずっとずっとルークの帰りを、約束を信じている私でいたかった。

気づけばセレニアの花が幻想的に咲き誇るそこに足が向かっていて、みんなも居て。
誰ともなくティアへ譜歌を謡うよう促した。
(もしかしたら自発的だったのかもしれない)

美しい旋律が辺りに響き渡る。
契約の証はもう意味を成さない。
風が吹き付ける度、セレニアの白い花弁が宙を舞う。
ひらひらと悪戯に揺れた、大好きな白い背中は現れない。

ローレライも、ルークも。
静かに謡い終わったティアの、私達の前に何も現れなかった。
何も変わらなかった。
相変わらず風が吹き付けるだけだった。


「…もう帰りましょう、暗くなってからの渓谷は危ない。」

正論だって分かってる。
分かってはいるけれど、体が鉛のように重く動くことがままならない。
初めの一歩が踏み出せない。
だってもう帰っては来ないのだという現実を認めてしまうような気がしたから。
否、いっそのこと諦められたらどれほど良かっただろう。

深く息を吐き瞳を閉じた。
踵を返そうと足を動かした。



その刹那、息を呑む音が聞こえた。
みんなが一斉に振り返る。
震えた。
息が、指先が、体全体が。
「どうして」というティアの問いに、「約束だしな」と赤い髪の彼は答えた。
それは最後に交わした言葉だった、ルークとの。
みんな、彼が帰ってきてくれたのだと思ったようだった。
(ただひとりを除いて)
みんな、半信半疑ながら自然と頬が緩んでいた。
(最も残酷な台詞が待ち構えているとも知らず)
























「…そう伝えてくれと、俺の中のアイツに頼まれた」








(こんな状況でも、まだあなたを信じている莫迦な私)


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