サクラ咲く季節に

□第3話「逢妻」
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「―――へ?」
 スカートだ。俺の目の前でこの学校のスカートがひらひらと揺れている。
 ……あ、今オレンジと白のストライプが見え……ってちょっと待て。何でそんな物が俺の目の前にあるんだ。
 俺は自分の置かれている状況を確かめようと、視線を上げていった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「―――」
 栗色の髪に、綺麗で大きな瞳をした女の子がそこにいた。
「だ、大丈夫だけど……」
 これは……やばいんじゃないか?
 現在1年は全員移動中。しかも俺はその先頭にいるはずだ。しかも運の悪いことに俺のクラスは階段に一番近い。ほとんどの人はここを通るだろう。
 そう思った矢先、周りがざわつき始める。
「おい、あれ……」
「なになに?」
「きゃ〜不潔〜」
 ……おい。
 ってそんなことよりも今は現状打破が先だ。
「と、とりあえず、どいてもらっていいかな……?」
「え?―――あ、す、すいませんっ!」
 乗っかってることを悪いと思ったのか、それとも周りの状況を察してか、はたまた自分が乗っかってる位置からだと見えてることがわかってか、女の子は飛び上がるように俺の上から降り、顔を赤くして俺のいた教室に駆けて入っていった。
「うちのクラスなのか、あの子……」
 立ち上がり様、それを見て点呼の時にいない人がいたことを思い出した。
 だとすれば彼女がその子か。確か逢妻って言ったっけ……。
 面白い(俺は面白くない)状況が終了したのを確認したからか、周りにたむろしていた生徒達も散り散りになり、辺りは事件が起きる前の状況に戻っていた。
 移動を再開しようと、さっきまで後ろにいた悪友に声をかける。
「ふぅ……おいりょ―――」
「朝っぱらから羨ましいやつめ!」
 その瞬間、背中から衝撃を受け、思いっきり前に吹っ飛ばされた。
「……ってぇ…………何しやがんだ……」
「まったく、朝から女子と廊下でバッタリなんてフラグ立つぞ、お前」
 何の話だ。
「で、どうだった?」
 そう言って涼は俺の肩に手を回し、顔を近づけて小声で喋りかけてくる。涼がこういう行動を取ったときは大抵いいことがない。
「……なにが」
 俺はしらばっくれるように返事をする。
「なにがって、あの子のパンツだよ」
 すると、案の定涼らしい答えが返ってきた。
「……見て―――」
「ないとは言い切れねぇよな?あんな絶妙な位置に顔があったんじゃ」
 諦める気はさらさらないらしい。
「……」
「ほれほれ。出すもん出しちまいなよ。楽になるぜ?」
「楽になるって……話しちまったら彼女がかわいそうだろうが」
 不慮の事故で見てしまったのに人に話せるか。
「まぁ、それもそうか。ちぇ、相変わらずおかたいなーお前は」
 出し渋る俺の言葉に無理と判断したのか、涼は自分からこの話題を打ち切ってきた。
「誠実と言ってくれ」
 そう言って涼との会話に終止符を打ち、俺は再び体育館を目指し歩き出した。

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