サクラ咲く季節に

□第2話「初登校」
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 俺は自分のクラスの教室に着くや否や、ドアを思いっきり開け放ち、中に飛び込んだ。その直後、教室内に予鈴の音が鳴り響いた。
「はぁ、はぁ……間に合った……」
 膝に手をつき肩で大きく息をする。
 家を出てから俺は終始全力疾走だった。学校までの距離も相まってどうにかこうにか開始までに着くことができた。
 教室内は静かで、未だに落ち着かない呼吸音だけが俺の耳に入ってくる。
 「……」
 ―――いや、ちょっと静か過ぎないか……?本当に自分の息遣いくらいしか聞こえてこないんだけど。
 呼吸を整え、恐る恐る顔を上げてみる。
(……何か、めっちゃ見られてる)
 ある者は驚きの、またある者は関心の眼差しで俺を見ていた。
 ……まぁ、入学式からいきなり遅刻ギリギリで登校してきたらさすがに驚くか。
 そんな時、クラスの中から聞き覚えのある声が俺を呼んだ。
「啓介ぇ、登校初日から遅刻ギリギリか〜?お前のその精神には感服するぜ」
 声のする方向を見てみると、何人かの男子が集まっている真ん中に涼がいた。
 花房涼。俺の家の近くに住んでいる、小学校時代からの悪友だ。整った顔立ちに普通より少し長い黒髪とキレのある目。そして話しかけやすい性格から、中学時代は男女、特に女子に人気があった。しかし、その大半は涼という人間の本性を知らない。
「うるせーよ」
 朝から皮肉を言ってくる涼を一蹴し、目配せする。涼はそれに気づくと、俺の下へと足を運んだ。
 教室内は俺が来たときの静かさから解放され、賑やかになっていた。
 その様子を見て、俺は涼に少し小さな声で話しかけた。
「なぁ」
「ん?」
「俺が来る前って、ずっと静かだったか?」
「いや?」
「やっぱりいきなり遅刻ギリギリは印象悪いか……」
 学校生活始まっていきなり不安の種が出来てしまった。
「いや、さっきの原因はどっちかって言うとそれじゃないか?」
 そう言って涼は俺の髪に視線を集中させた。
「ああ……これね……」
 俺の髪はみんなと違う。
 父親曰く、俺の母親はハーフだったらしく、その髪は雪のように真っ白だった。
 その血を俺は色濃く受け継いでいるらしく、髪は母親と同じ色をして生まれてきたってわけだ。
 そんな人間がいきなり自分達のクラスに入ってきたら嫌でも驚くだろう。
「ま、いつものことだ。あんまり気にするなよ」
 涼はもはや決まり文句になりつつある言葉を俺に投げかけてきた。
 そんなに気にしてるように見えるのかな……。自分自身ではこの髪はむしろ気に入ってるんだけど。
「いや別に俺は―――」
 そんな涼の勘違いを直そうと思い言葉を紡ごうとした、その時だった。
 廊下の向こうから先生らしき人達がこっちに歩いてくるのが見えた。多分新入生の担任になる人達だろう。
 それを確認した俺と涼は自分の教室に戻り、指定された席に着いた。
「みんな席に着けー」
 それとほぼ同時に、いかにも教師らしい男性が入ってきた。
 その声を聞いて生徒達は皆指定された席に向かう。
「とりあえず出席取るぞ。えー、一番。逢妻千代」
 そう言って教師は学籍簿目を移し、名前を読み上げる。
 …………。
 ………。
 ……。
「……?」
 名前を呼ばれてしばらくしても、誰も反応しない。見ると、一番右前の席が空いている。
(遅刻……?)
 まさかな。こんな大事な日に遅刻なんて普通はしないだろ。……しそうなやつはいてもな。
 その後、全員の出欠を取り終えた教師は「みんな速やかに体育館に集合するように」とだけ言い、さっさと教室を出て行ってしまった。
「体育館ねぇ……」
 確か、地下だったな……。
「啓介、混むと面倒だからさっさと行っちゃおうぜ」
 生徒手帳で正確な場所を確認しようと思った瞬間、涼が俺を呼んだ。
「場所、わかってる?」
「一階まで降りて、下駄箱の横突っ切れば右側に見えるよ」
 どうやら問題はないみたいだ。
 俺は入り口が混む前にさっさと動くことに決め、教室から外に出―――
「きゃあっ!」
「うわ!」
 ようとした瞬間、何かとぶつかり俺は大きく後ろに転倒した。その弾みで床に思い切り頭をぶつけてしまった。
「痛〜……」
 受け身すら取れなかったせいで、目も開けられないほど強烈な痛みが後頭部を襲う。
 こりゃ、タンコブじゃ済まないかもしれない……。
「イタタ……。―――!? はわわっ」
 そんな俺と同じ目にあった人がいるのか、どこからか声が聞こえてくる。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
 続いて、俺への謝罪と心配の声。
 訳が解らず、とりあえず俺は目を開けた。その視界に見えたのは―――

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