サクラ咲く季節に

□第6話「幼馴染み」
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(ん? あれは―――)
 校舎を出た直後、俺は校門の前に見覚えのある姿を発見した。160センチ程の身長に、肩を少し越えたくらいの黒髪。そして、美少女と言っても足りないくらい整った顔立ち。
 彼女は校門の中央で腕を組んで仁王立ちしていた。その近く……いや、遠くにいる生徒も含め、皆(特に男子)一度はその目に彼女を写している。
 そりゃそうだ。あんなにいい容姿を持った子が校門の前にどーんと構えてるんだから。知り合いじゃなかったら多分俺も彼女のことを見ているだろう。
 向こうも俺に気が付いたようだ。こっちに近づいてくる。
 俺は挨拶がてらその少女の名前を―――
「よ、奈々―――」
「遅い!」
 呼ぼうとした瞬間、怒られた。ついでに頭どつかれた。
「〜〜〜〜……」
 あまりの激痛に声さえ出せなくり、頭を抱えて情けなくうずくまる。
「全く、いつまで人を待たせれば気が済むのよ」
「俺はお前と約束した憶えはない……」
 そんな俺の言葉に「はぁ?」とでも言いたげな顔をする奈々美。
 この怒りっぽいところさえなければ美少女で済むんだろうけどなぁ……。
 そんな俺に呆れたような顔をしながら―――
「今まで一緒に帰ってたじゃない」
 彼女は言った。その瞬間、俺と彼女の近辺にいた男子から視えない凶器が飛んでくる。人はそれを殺気と呼ぶ。
 まぁ、気持ちはわからなくもないんだけどね……。
 奈々美は誰がどう見ても美少女だ。その場にいるだけで人の視線を集める。スカウトマンに声をかけられることもよくあるほどだ。
 そんな少女に話しかけられてるのが男となれば、同性としては嫉妬の一つや二つしたくはなるんだろう。
 しかし、それももう慣れっこだ。中学三年間、俺はこれと同じ苦しみにずっと堪えてきたのだ。
 ……いやこりゃもう嫉妬なんてレベルじゃないな。実際に体に何か刺さってるような感覚してきたし。ここまで来るともはや呪いとかそういう類いだ。
「帰ろうか……」
 俺は一秒でも早くその場から離れたくて、その原因になった張本人と共にひばり学園から下校もとい撤退する。
「啓ちゃん、何か疲れてる顔してるよ?」
 あーもう頼むから今だけはその呼び方はよしてくれ。俺の体中に嫉妬と言う名の刃物が刺さりまくるから。
「大丈夫?」
 そんな俺の心を知る由も無く、心配そうに覗きこむ奈々美。
 すぐぶつくせにすぐ心配する。それが我が幼馴染みの性格であった。
「大丈夫じゃない……」
 俺は隠すのも嫌になって、がっくりと項垂れたまま校門から出た。
「はぁ……」
 校内から去ったのと同時に体中から感じた痛みのような違和感は徐々に消えていった。
 恨みで人が殺せるなら、今日俺は何回死んだだろうか。



「それじゃ、ここでお別れね」
 住宅街の曲がり角、十字に分かれた場所で、奈々美がそう告げる。と言っても二人の家はもう目と鼻の先だ。会おうと思えばすぐにでも会える。
「そういや、今日の朝なんで起こしてくれなかったんだよ」
 その別れ際で何となく聞いてみた。朝が弱い俺は、親父がなかなか家にいないこともあって中学の時からずっと奈々美に色々とやってもらっていた。しかしいつまでもそれでは情けないと思い自分で起きることを決意したのだが……そうそう初日からできるものではなく、見事に寝過ごしてしまった。
「『もう大人なんだから、朝くらいは自分で起きるー』なんて言ってたのはどこのどいつよ」
 その事実を知っている奈々美は少し怒り口調で俺に言う。これにはさすがに反論しづらい。
「で、でも朝飯作る時間あったんならついでに起こしてくれてもさぁ」
 苦し紛れにそんなことを言ってみる。
「そこであんた起こしちゃったら意味ないじゃない。それに朝食の準備だって、朝自分で起きるって言うなら自分でやりなさいよ」
「うぐ……」
 彼女の言ってることが正論なので、とても言い返せない。それでも何か返せる言葉はないかと探す。
「それじゃ、また明日ね」
「あ、ああ……」
 しかし、タイムリミットが来てしまったようだ。
 何となく歯切れの悪い挨拶を交わし、俺達はそれぞれの家へと帰宅した。

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