自作小説『アヤメ街の便利屋』


□アヤメ街の便利屋SP〜馬鹿の壁紙〜
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午前六時。
アヤメ街の南地区の中心地で、一発の爆弾が爆発した。
爆音はせず、建物への被害も無い。
人的被害もなかった。
ただ現場では、ピンク色の髑髏の形をした煙りだけが立ち上り、やがて消えた。

午前十時。
便利屋ヤードが起床。
そして狂乱の物語が動き出す。

「う〜〜寝過ぎた。」

けだるい身体に鞭を打ち、ベッドから出る。
昨日は珍しく仕事がなかったので、早目に寝た。
そしたら寝過ぎた。
あ〜しんどい。

「あなた、コーヒー入れたわよ。」

「サンキュー。」

マグカップを渡され、少し濃いめのコーヒーを飲む。

「あなた、なかなか起きないんだもの。せっかくの朝食が冷めるわよ。」

「すまない。」

テーブルの上には、パンや目玉焼き、サラダが並ぶ。

「ほら、早く食べてね。今日はお休みでしょ?買い物に付き合って欲しいの。」

「わかったよ。」

パンを食べようとして、何かに気付く。
何で独身の俺の家で、俺が作ってないのに朝食が出る?

「な、な、な、なんでだ?」

目の前には、エプロン姿のカスミがいる。

「どうしたの、あなた。鳩が豆マシンガン喰らったような顔して。」

カスミは不思議そうに首を傾げる。

「カスミさん?何をしてるんでしょうか?」

「何をって……あなたに朝食を作ったから、食べてもらおうとしているんだけど。」

さも当然のように話す。
待て、冷静に、落ち着け、クールに行こう、やれば出来る子だろ。

「どうしたの、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫ですよ。俺は至って大丈夫。」

「変な人ね。」

軽く傷ついた。
ヤードの心、とても繊細。

「カスミさん、えっといつからこの家に?」

「いつからって……本当に大丈夫?結婚して三ヶ月経つのに。」

「三ヶ月?結婚?」

壁に掛かったカレンダーを見る。
カスミさんを違法賭博組織から助けた日から、三ヶ月が経っている。
いや、それは間違いない。
間違いないが、人間関係がおかしい。
カスミさんは、エリンの店に住み、一般常識等を教わっているはず。
断じて俺と結婚生活なんて送っていないはず。

「あなた……まさか浮気してるの?」

「浮気!!?」

「動揺した……やましい事があるのね!!」

「いえ、まさか、そもそも。」

「あなたを信じているのに!お腹の中の子は、あなたの子供なのよ!」

ええぇー!!
俺が父親!?
て言うか、何だそりゃ!?
駄目だ。事態についていけない。

「いいわ…それなら。」

「あの〜カスミさん?どうして包丁なんて持っているのでせうか?」

「あなたを殺して、私も死ぬわっ!!」

カスミは包丁を握りしめ、俺に切り付けてくる。

「逃げるな人で無し!」

無理言わないで!!
脱兎の如く逃げ出した俺は、エリンの店に向かった。
エリンに現状を確認する為に。

「エリンさん!」

エリンの店に飛び込むと、店のロビーにエリンが立っていた。

「おや、誰かと思えばヤードじゃないですか。」

「カスミさんが俺の家で包丁振り回して朝飯作って子供が出来て訳がわかりません。」

いや、俺の説明もわからないか。
俺の頭が混乱しているから。
しかし、エリンの言葉が、混乱した俺をさらに突き放した。

「どうしたのです。落ち着きなさい。母様にちゃんと一から説明して下さいな。」

「か、か、か、母様!?」

だ、駄目だ。
カスミさんが嫁で、エリンさんが母さん?
何だこれ……悪い冗談か?
皆様で俺を騙してんのか?
しかし、事態はさらに悪化する。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「お兄ちゃん?」

階段を降りて来たのは、受付嬢のミーニャ。

「家で何かあったみたいなのよ。」

「また、あのヒス女が暴れたの?」

「ミーニャ、カスミさんは貴女のお姉さんよ。それに言葉遣いが汚いわ。」

「私はあんな女を認めない。お兄ちゃんは騙されてるのよ。」

あぁ、騙されてる。
全員が俺を騙してるだろ。
で、種明かしはいつだ?

「お兄ちゃん、さっさと別れて!そして私と幸せに暮らしましょ?」

なんだ、その危ない兄妹設定は。

「ミーニャ、早く兄離れしなさい。ヤード、とにかくカスミさんと話をするのよ。わかりましたね?」

味方は居ません!
隊長殿、私は完全に孤立しましたぁ!

「お兄ちゃん!私の愛は、お兄ちゃんだけに捧げるわ!」

ミーニャ(妹)の叫びを聞きつつ、俺はヨタヨタとエリンの店を出た。
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