自作小説『アヤメ街の便利屋』


□アヤメ街の便利屋SP〜馬鹿の壁紙〜
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カスミが嫁。
エリンが母。
ミーニャが妹。
さて次は何だ!
もう何が来ても驚かねぇ!
何でもきやがれ!

「ヤード君?」

「あぁ?」

俺の後ろにサエリが立っていた。

「何だ、サエリ。お前は何だ?兄弟か!友達か!敵か!味方か!」

「ちょっと落ち着けよ、どうしたんだ?」

「落ち着けだ!?落ち着けるか!訳がわかりません!お兄さんは頭がぐちゃぐちゃです!」

「なんかマズイ薬でもやってる?」

「やるか!!」

駄目だ、サエリの役がわからない。
混乱する一方だ。

「ところでサエリ。どうしたんだ?」

「何が?」

「店から出るなんて珍しいな。」

「店?僕が店から出る?」

「武器屋の主人じゃないか。」

「武器屋?よしてくれよ。僕が争い事を嫌いなのは知ってるだろ?」

「争い事が嫌い?」

どうなってるんだ?
サエリは凄腕の元傭兵で、武器に囲まれてないと発狂するはずだ。(言い過ぎ。)

「ヤード君、悩み事なら相談にのるよ?必要なら腕のいい精神科のお医者様も紹介するよ。」

「いや、いい。疲れているだけだ。」

フラフラしながら歩き出す。
サエリは心配そうに俺を見てやがる。


俺はヤーナルの店に向かった。
俺にとって最後の砦だ。
ヤーナルまで変わっていたら、俺は壊れる。
間違いなく壊れる。
微かな希望を胸に、ヤーナルの店のドアを開ける。
そしてその場に崩れ落ちる。

「あら、どうしたの?」

なんつうか、ヤーナルは変わっていた。
いや、変わり果てた姿だった。
顔は変わらない。
だが、その姿は、なんと言うか、まあ、女だ。

「ヤーナル。俺は駄目だ。」

「やーねー!エリザベスって呼んでよ!」

エリザベス。
あぁエリザベス。
死ね。

「大丈夫?顔色悪いわよ?」

エリザベスの恰好の方が気持ち悪いわよ。
もう声も出ないわよ。
神様、憐れな私を助けて。
私、もう堪えられなわ。
オカマ口調になってるし。
ゲイバーのママか。
こりゃ、一本取られた。
俺の予想の右斜め後ろ位を行ってらっしゃる。

「エリザベス、酒だ。一番強い酒だ。忘れてやる。今を全てをなにもかもを!そして目が覚めれば、全てが元通りだ!」

「ヤード……疲れてるのね。」

「疲れる?馬鹿言うな。俺は正常だぜ!これ以上に正常な人間がいるかってんだ!」

「ヤード、私が慰めてあげるわ!」

カウンターからヤーナルが飛び出してくる。

「死ね!」

命の危険を感じた俺は、手近な椅子でヤーナルの頭を殴る。

「あは、あはは。あはははははは、は、はは、は。」

壊れた笑い声が止まらない。



ヤーナルのゲイバーを出て、街をさ迷い歩いていると、携帯端末が呼出し音を鳴らす。
番号は、スライド警部補だ。
あれか、ネタばらしか。
警部補の陰謀か。
そうか、そうか。
ついに黒幕の登場だな。
殺そう。
先祖の名にかけ、殺し尽くしてやる。

「貴様が犯人か!」

『何を発狂している、この馬鹿が。』

「旦那、こりゃ効いたぜ。俺は死にそうだ。」

『喜ばしい限りだ。馬鹿言ってないで仕事だ。』

「それどころじゃねぇっすよ。街はめちゃくちゃ。俺もめちゃくちゃ。」

『おい、本当に大丈夫か?』

「駄目だネ。俺は駄目だ。」

『予想を超える事態だな。』

「そうだな。予想を超える……って、何か心当たりがあるんですか?」

『昨夜、首都にある製薬工場の研究室から、未完成の新薬が盗まれたらしい。犯人は捕まえたが、肝心の新薬は、第三者に渡ったようだ。』

「新薬……。」

『効果は未知数だが、なんでも人の精神に作用して、その人の願望を表に出すらしい。』

「まさか、その新薬が。」

『ああ、何等かの形でアヤメの街に渡り、お前の周りで使用されたようだな。』

「なんてこった……そんなオチか。」

『開発中だから、ワクチンがないらしい。効果は半日程度で消えるようだが。』

「半日……何時頃から始まったかわからないけど、まだ続くのか……。」

『盗まれたのは微量だ。二回目はないだろう。』

「何となく理解しました。でも今日は仕事どころの騒ぎじゃないです。」

『了解だ。まあ、たいした犯人じゃない。騒ぎが収まったら連絡しろ。』

「うい。」
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