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□短編
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しとしと………




「雨………」





放課後,綱吉は昇降口で空を見上げていた。
最近の天気は雨が続き,まだ残暑の残る暑さと相まってじめじめと気持ち悪い空気がまとわりつく。


「はぁ……ビニール傘だったからなぁ……」


綱吉がこうして立ち往生しているのには理由があった。
雨は朝から降っていたから傘は持ってきていたのだが,いざ帰ろうとした時,彼のビニール傘はなかったのだ。
慌てて探すも見つからず,名前も書いていなかったし誰かが間違えたのだと予想したが,だからといって勝手に余っている傘を使う気にもなれない。
便りの友人は,獄寺は火薬の調達にイタリアに行っていて今日はいないし,山本は野球の試合で遠征している。
つまりは,雨が止むのを待つしかないということで。


「………」


生徒達はそんな綱吉を眼中にも入れずどんどん帰っていく。
下校する生徒も疎らになり,何をするでもなくぼーっと雨を眺めていると……


「………そこにつっ立ってるのは誰だい」
「っ?!」


突然気配なく近づいてきた誰かが,下駄箱の影から話し掛けてきた。
慌ててそちらを振り向いた綱吉が見たのは……


「っ,雲雀さん?!」


並盛の秩序にして恐怖の代名詞,泣く子は黙らせられる無敵の方,風紀委員長こと雲雀恭弥がそこに姿を現した。
一瞬にして血の気を失う綱吉。
そんな彼にお構いなく,雲雀はすっと近寄る。


「……君なの。珍しく群れてないみたいだけど……帰らないわけ?」
「ぁ,あのっ,傘……」
「忘れたのかい?朝から降っていたのに?」
「い,いやその,だ,誰かが間違えて……」
「…………(ピポ)…草壁。すぐに傘を間違えた愚か者を捕まえて……」
「わあああぁぁっ!大丈夫です!雨が止んだら帰りますから!!」
「止んだらって君…これからますます酷くなる予報だよ」
「ぇ………」


言われてみれば確かに,段々雨脚が強くなっている気がする。
途方に暮れかけていると………


「………仕方ない,送ってあげる」
「………………はぃ?」
「耳遠いの?だから送ってあげるって……」
「ぇ…えええぇぇ?!」


「うるさいよ」と頭を拳で叩かれたが,そんなこと気にもならなかった。
あの雲雀が,自ら群れると言いだしたのだ。
あれ程群れ嫌いで1m以上はなれていないと問答無用で咬み殺そうとする彼が,ピッタリくっついた状態になるであろう相合傘を提案するなんて……!!
綱吉はそう驚いていたが,肝心なのはそこではなく,そう言った雲雀が全く嫌悪やら怒りといった負のオーラを見せていないところにあるのだ。


「じゃ…ちょっと待っててくれる」
「ひ,雲雀さん!あの,俺は大丈夫…」
「……何,僕の誘いを断るつもり?(ギロッ)」
「めめめ滅相もありませんっ!」


綱吉に雲雀に逆らえるほどの強気な姿勢になれる根性があるはずもなく。
狩る者×狩られる者の構図が出来上がってしまったのだった。








「…………」


無言。
雲雀に似合いの黒い大きめの傘に入った2人は,その色が示すとおり暗い雰囲気で歩いていた。
通りすがりの一般人は,その異様な光景にただ目を逸らし無関心を装うばかりである。
誰も雲雀に食って掛かろうとは思わない。
何故なら彼は並盛の秩序だから。


「…ひ,雲雀さん!あのこっち……」
「君の家は行ったことあるから知ってるよ」
「………そぅでした」


満足に会話ができるはずはなく,結局重たい空気を背負ったまま綱吉の家に着いた。
馴染んだものを感じて,綱吉もやっと少し体の力を抜く。
そこで,初めて自分の体に視線を向けられた。


(………アレ?)


彼らが帰る頃には,雨は激しくなっていた。
普通相合傘をしていれば,内側に入っていない肩はびしょ濡れになっておかしくはない。
それがどうだろう……ほとんど濡れていないばかりか,足元すら水でぐちょぐちょと言った悲惨なものにはなっていない。
その理由で考えられるのはただ一つ。


「……っ雲雀さんちょっと待ってて下さい!」
「はぁ?」


雲雀の状態をちらりと見て驚いた顔をした綱吉は,いつものダメさなどなんのそのといった様子で素早く家のなかに飛び込む。
気の抜けたような雲雀の声だって聞こえない。
母親の奈々に挨拶をかけられても,眼中にはなかった。
真っ白で綺麗に畳まれたタオルを引っ掴み,素早く外に出ると,いつもより少し目を大きく開いた雲雀が傘をさして立っている。
それを慌てて玄関の軒下に引っ張って,いつになく驚いた様子の雲雀の肩をタオルで拭きだした。


「雲雀さん,俺なんか構わなくてよかったのに!」
「……それで風邪を引いたら……」
「雲雀さんの方が風邪拗らせやすいでしょう!」


いつもの怯えもなんのその,本気で心配した様子でそういう綱吉に,雲雀は目を見開くと,ふわりと相好を崩して目を閉じた。
生憎,ほんのり湿った髪も気になって拭いだした綱吉は,それに気付かない。


「……じゃあ僕は行くよ」


その後,はっと我に返って綱吉は慌てるも,やけに機嫌がいい雲雀に首を傾げたり,また濡れるからと綱吉からタオルを奪って去る雲雀がいたり,これがきっかけで2人の距離がぐっと縮まったりしたのだが……それはまた別の話。








ザアアァァァ……




「……いつもこうなら雨でもいいかもね」




END





えははぁ……あまり片思い話って書かないのですが……気分ですね。
雲雀さんは綱吉にリボーンが来る前から一目惚れしてるといいよ!!
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