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□藍
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ザシュ
「子猫ちゃん様ッ」
ぐらりと傾く体を、珠翠は悲鳴のような声を出し支え名を呼ぶ。
「珠翠、…怪我は?」
「わたしは無事です。でも……子猫ちゃん様が…」
『どうした珠翠、誰が怪我を…っ!傷を見せろ。』
すぐに状況を理解した頭。風の狼を率いる魁斗は傷口から流れる血を止血する。
きつく縛っても、脇腹を刺されたそれは流れ。止血剤をふりたくった上でだということに二人の顔は険しいものに。
チラリと珠翠を見た魁斗は彼女が無傷な事を確かめ、同時にその様子から子猫ちゃんが彼女を庇った事は想像に容易かった。
傍らには絶した敵が転がっていた。
「子猫ちゃん様……なぜ…」
「珠翠、大丈夫。君は女の子なのだからそんな顔をしてはいけないよ。さあ、私の好きな笑顔を見せて…」
「子猫ちゃんさま、、」
じわりと締め付ける布が染まっていくのが闇夜でも分かる。
深い森の中となれば血の臭いに獣が出る。
『珠翠、北斗を待てるか、』
その言葉に頷く珠翠は、私は怪我をしていないので早く子猫ちゃん様を医者にとすがるような目。
分かっていない。
「魁斗、珠翠は無理だ。
置いてはいくな。」
厳しい口調になる子猫ちゃんの顔色は月が隠れ分からなく、けれどその体がこのままでは冷たくなってしまうことは確かだった。
『珠翠、君がその震えを抑えない限り私は彼を連れていけない。あらかた片したとはいえ敵がまだ潜んでいるかもしれない中、瀕死の彼と君どちらを優先する方が風の狼にとっての策か。』
考えれば分かるだろう?
非情なそれに珠翠はそんなと、嘆くよりも自身の震えをなんとか堪えようとし、子猫ちゃんを目に入れないようきつく目を閉じる。
呼吸調えるその数拍を子猫ちゃんは残念そうに。
「言い方、というものがあるだろう。
珠翠、目を開けて。最後のお願いだ。」
はっと瞼は開かれ珠翠が子猫ちゃんを見ると子猫ちゃんは苦痛の中にありながら嬉しそうに口元を緩め。
「そう、その綺麗な蒼だ。」
今は暗闇に色が翳ってしまっているそれが、太陽の下では綺麗な事を知っている。
子猫ちゃんは手を伸ばし頬をそっと撫で、それから頭に手を載せよしよしとあやすように。
『動くな。喋るな。』
「くすっ」
魁斗が仲間思いなことも、知っている。
衣を裂き新たな布が巻かれていくのを感じながら
「珠翠、君とのお喋りはとても楽しかったよ」
喋るなと言っただろう。真紅の眼に見下ろされながら、その眼は怖くとも冷たくはないと知っている。
「私は幸せだった。珠翠、手を。」
きつく握る珠翠の手に
「色んな話を聞かせてくれて、ありがとう」
馬で遠駆けに出て湖を見に行った。
街に下り、甘味を共に食べた日もあった。
髪紐や簪、珠翠が綺麗になるよう買い与え贈り物を。
「どれも幸せだった。」
走馬灯のように目に浮かぶ
「子猫ちゃん様、しっかりなさってください。邵可様っ私は大丈夫ですから早く子猫ちゃん様を」
「そう簡単に頭の名を呼んではいけないよ。」
それこそが動揺だと。教えてやりながらもそんな優しい心の持ち主の珠翠を愛しいと子猫ちゃんは思う。
邵可はそんなやり取りを見ながらきつく巻き上げ、子猫ちゃんに喋るなと今一度告げるか気絶させるか一瞬迷った
「藍家の四男を、怒る君は可愛かった。」
「子猫ちゃん様っ」
さまざまな思い出が頭に過るのは珠翠も同じ。感極まったように、涙を浮かべ名を。
「まったく未熟者でどうしようもないが、見目は格好良いのだろう?
流行りの甘味を見つけるのが上手い。
はぁ、は、くっ、」
魁斗、絞めすぎ、いや締めすぎじゃないか。子猫ちゃんはそう感じながら
「綺麗に着飾った、君を四男に見せることが出来て私は・・・」
押し寄せる痛みに辛いのだろう、苦しそうに息を
「お前らっ、何してる!」
全くその通りだ。
響く怒鳴り声に、魁斗は止め時を逸した自分を反省した。
もしこのまま彼が助からなかったら、珠翠に残るのは彼を思う愛しさが、ちょっと微妙な気持ちで落とし所がない。
あちゃー。とそれとなく珠翠を見れば、
感極まったまま流していた涙が、えっと、止まっていた。
女心が分かっちゃいない。
敵は完全に制圧したのだろう北斗の声を聞きながら、
魁斗は子猫ちゃんを文句なしに黙らせて、担ぎ上げ山を下りた。
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