闇華

□見守る者
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「っ・・・」

無言の威圧感と、蛇の様な鋭い視線に劉輝の頭の中は警笛を鳴らし続けていた・・・


「これに何をした...」

目を見開き、身動きとれない劉輝に、
地を這うような声で男が問うた...


「っ・・・・・・(コクッ・・・)」
劉輝は言葉を発する事が出来ずに喉元だけがコクッと動き、
背筋が凍ってしまいそうなほど、自分に怒気を向けてくる男の顔を・・・瞳を・・・
薄暗い部屋の中でしっかりと目にした。


僅かな沈黙さえも、永遠と思えるような空気の中、

男が闇華にゆっくりと、白い手を伸ばしてきた・・・

(何を・・・)
劉輝の声は音にならず、虚しく息を吐く音へと変わる・・・


劉輝が何も出来ぬまま、男の手が闇華を捉え・・・


(手を離せっ・・・)
劉輝の思いも虚しく闇華の身体をゆっくりと持ち上げ・・・

去ろうと身体を翻した男の背に、
"どこに連れて行くっ!"
と視線を投げつければ、、、


男はゆっくりと振り向き、一度あらゆる表情を削ぎ落とした後に・・・

ギロリと燃え上がる程の怒張を込め、劉輝を凄みのある眼で睨み付け...


「よもやここまで愚かだとは・・・」

そう一言落とし、
今度こそ部屋を出て行こうとする男の背を、
悔しさと、悲しさのあらゆる感情が混ざりあい、
唇を震わせて・・・失意の中見送った・・・


霄の背を・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーー

キィィ...


トサッ...


闇華を待ち人がいる部屋の寝台に寝かせると、

寝台の淵に優雅に...それでいて豪快に座っている人...待ち人を見た。


「・・・・・・」
先程劉輝を睨み付けていた霄は、
逆に睨み付けられた。

尚も男は無言の威圧感を垂れ流して霄の顔を、目をツと細め見る。


「はぁっ・・・。劉輝陛下に嫁を・・・
・・・・・・黒狼の娘、紅秀麗を嫁に来させるとしましょう・・・」


その言葉を聞き、男は垂れ流していた威圧感を抑え、闇華を見て...

『当分俺は逝けぬな・・・』
クスリと珍しい笑みを浮かべた。


その表情を見て霄は何だかむかっ腹が立って来た...

「だいたい、主上の育て方が悪いから、こんな事態になったのでしょう!」
ふて腐れた様に口にすれば、


緩んでいた表情が一変し、
『後はお前に任せると言ったはずだが?』

"お前が悪い"と責任を転嫁した。


・・・・・・・・・

僅かな睨み合いの末・・・

『「はぁっ・・・」』
二人はため息を溢した。


彼らが闇華にしてやれる事は・・・

・・・紅秀麗を嫁に来させる事。


今夜の事で、少なからず居場所がバレてしまったであろう事を見越して・・・


紅秀麗が嫁に来た為に、居場所がバレたのだと、闇華に思わせる為・・・

自分のせいで居場所がバレたとなれば、
自らさっさとあの男の元へ行ってしまいそうな、優しい闇華の為に・・・


『よもや黒狼の娘が劉輝の嫁になるとはな』

「それはあっちも同じでしょう。・・・鬼畜王の息子の嫁など・・・」


『っち...黙れ霄、お前はさっさとあの邵可の娘を嫁がせる手はずを整えろ。』

そう言って戰華は霄を部屋から追い出した。

ぽっくり逝くはずだった自分を、死して尚、魂留めした喰えぬ男を・・・

そして戰華は、
劉輝が"王として立つ"と、
自ら奮い立つのを見届ける為に若い姿のままただ存在し...


闇華にさえも知らせていなかった。


『さて...お前は俺を怒るだろうか...』

珍しく眉ねを寄せながら苦笑して、

今も僅かに苦しそうに息を吐く闇華の姿を瞳に映し、そっと頬を撫でた...
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