紅華

□紅華9
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語り手知らず・・・・・・


「霄、なんでこれ語り手知らずなの?だってこれ・・・「紅華よく聞け・・・」」

そう言って霄は、紅華が彩雲国の国語りを読み終え"最後の語り手知らず"のところを突っ込み尋ねて来たところで、よく聞けと言葉を続けた。



「道でとある見ず知らずの女を助けた訳ありの男。助け終えると男はそのまま去ろうと背を向け歩きだす...。
そして女は問う
。・・・・・・"お名前は・・・せめてお名前だけでも・・・"

そして男は背中で雰囲気を醸し出しながら言うんだ・・・」




ーー「「名乗る程の名は持ち合わせちゃあいやせん」」ーー



昔二人でいつか見た[男は黙ってなんとやら]といった風な安っぽい劇だったか、
その名台詞を、その時を思い出しながら紅華と二人口を揃えそう言った。

「そっかぁ。」
「ああそうだ。名を出すよりあえて語り手知らずの方が格好いいだろう。
だから今後"語り手知らず"と耳にしてもそこを突っ込むってのは野暮なものだ。いいな紅華?」

上手く紅華を丸め込む事が出来たと、紅華のキラキラとした好奇心いっぱい秘密の共有ウキウキといったその瞳を見て、
霄はこっそりとホッと安堵の息を零した。

その語り手知らずの正体を知っているだなんて事になったら色んな意味で騒ぎになる。
霄は紅華を一撫ですると次の本を手渡し、読むように進めた。



「......桃太郎。」

「そうだ。」

「・・・懐かしいね。」

そこいらの街で買って来たであろう真新しい表紙を懐かしそうに撫で。一度その本を膝上に置くと。
紅華は青年姿の霄にそのままギュッと抱き着いた。


「お前のところのアノ犬は今頃何処にいるのだろうな。」

「うん。何処にいるんだろ・・・・・・ポチ。」

紅華のポチとの呟きに、アノ暴れ犬はそんなもんじゃないと激しく内心突っ込みつつも。
その犬の話しをこれ以上続ければ、会いたいと言い出すかもしれないと、話題を・・・


「確かあの方のは鳳凰だったな。」

鳳凰をキジと例えるだなんて、そのあんまりすぎる例えに、
あの方以外懐こうとも下ろうともしない凛々しい瞳の鳳凰を思い出してしまい。
霄も紅華もクスクスと額をくっつけながら肩を揺らし、
ナニカ秘密の悪戯が成功した子供の様な顔で笑った。


「あれ?・・・でも猿はドレ?。誰か猿飼ってたっけ?」

その問いに、霄は、「さ、さぁの。」と、爺口調でごまかすと、目の前の"サル"を 見た。


そしてそれと同時に、鳳凰の飼い主であるあの方こと、全てのはじまり蒼玄を思い出し、"桃太郎"の話しを懐かしく思い返した...。



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