紅華
□紅華3
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それは貴陽にある紅家別邸、その回廊での出来事
パタパタパタパタ
回廊を駆ける小さな足音が後ろから聞こえ、
夕食を摂るため皆が集う居間へと足を進めていたこの家の家人、シ静蘭は足を止め後ろを振り返った。
それと同じくして
「せぃらぁ〜」と
愛らしい声が響き
はぁっはぁはぁっ
「せぃらぁん はいっ これぇっ!!」
餅のような柔らかな頬をにぱぁと緩めながら、白く息をきらし静蘭を呼び止めたのは紅華。
そのまま紅華は手に持っていた花の束を差し出した。
それは先程紅華が庭の一角から摘み取った花であった。
「せいらぁ おめでとぅ〜 えへっ」
そう言う紅華は満面の笑顔を静蘭に向け。
『ありがとうございます紅華お嬢様』
つい反射で静蘭も笑顔で言葉を返す。
だが、一つ困った事が頭の中をぐるぐるとかけまわっていた。
(何なんだ・・・?お嬢様はおめでてうと言ってこの花を渡したが今日は何かの日だったか・・・?いや、お嬢様が何か勘違いをなさっているのかもしれない。まだ幼いゆえきっとそうだろう)
静蘭はせっかく紅華がくれた花をつき返す訳にもいかないので、そう勝手にひとり結論づけ。
その間も紅華は「せいらぁ せぃらぁん」と何度も名を呼んでは、笑みをうかべている。
夕刻ともなれば最近は更に冷える。
花を手にしていない方の手で紅華のちいちゃな手と手を繋ぎ温かな居間を目指す。
花を摘んだその手がまだ少しちめたいから。
元気いっぱいに嬉しそうに笑う紅華を前に冷たいではありませんか‼そう小言はその顔を前にしては言えなかった。
言ってもきっと
「ほんとだあ、ちめたいねー」
ふにゃっと笑うのだとなんとなくそう思えた。
それくらい何かをおめでとうと、嬉しそうに浮かれている。
いったい何なのだろうか、やはり何かの勘違い、だろうか…
そうこうしているうちに、居間に辿り着いた静蘭と紅華の二人は、
既に居間の席に先に着き談笑していた邵可達に促されるようにして腰をおろした。
がしかし、
何かどことなく変なのだ。
いつも穏やかな笑みをうかべている邵可だが、いつにも増してにこやかな表情をしている。
しかも、細君や秀麗までもがいつにもまして、にこにこと満面の笑みをうかべているではないか。
もう紅華にいたっては、回廊で呼び止められた時からずっと笑顔を向けられっぱなし。
その上、秀麗が
「はぃっ!これっ せいらぁんに! 紅華がきょうはせいらぁの日だってゆーからぁ 」
静蘭はまたしても花をもらい。秀麗の(今日は静蘭の日)と言うので、先程にも増して
訳が分からなくなり、秀麗にありがとうございますと礼を口にしつつ心の中で頭を捻る。
なのに
唯一の頼みの綱である筈の大人二人は相変わらず笑顔のまま・・・
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