闇中

□歓喜の福音
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「起こしてしまったかな・・・まだ寝ていて。」


ふと感じた気配・・・
優しい声のその人に、瞼が開けられないままうつらうつらと擦り寄れば、
ふっと優しく笑うような息遣いの後、柔らかい感触が顔中に何度となく降ってくる気配がする。
愛しき姫はその温もりを感じながら、また深く眠りに引き込まれた。












‐‐‐‐‐



「何サボっているのかな?」
『見つかってしまったね。』


「何が"見つかってしまったね"なのかな、雪?」
にっこり笑うそれは堕天使。
『おかしいな、ワイヤーを探しているつもりが、気がついたらこの場所へ・・・不思議だね。』


俺様語を止め。上っ面にこやか自分を全開に
見つけた方がにこり。

普段の柔和さに少し自我という毒気を加えた
見つけられた方も謝る事なくにこり。

面だけ天使の堕天使同士がにこりと冷ややかに、小声で会話している。
すべては寝息を立てている愛しき姫を起こさぬよう。



「泣きつかれた愛しき姫に酒を与えたくせによくもまあ。酒がすべて解決するとでも?馬鹿雪。」

『おやおや。愛しき姫をぐっすりと眠らせて、その間に済ませる予定だったろう?』

「そうだね。でも完成しないんだ・・・。なぜだと思う?」

『ワイヤーが無いからかな?』

「そう。あたり。」

『ワイヤーがなければ導火線を使えばいいじゃないか。』
軽やかに言ってのけるそれは、パンがなければなんとやらと言った女のよう。

「別にいいけれど、それこそ愛しき姫が起きてしまうかもしれないね。」

罠に使うワイヤーを導火線にすれば、トラップに引っ掛かった相手はさてどうなるやら・・・


「はやくこっちへおいで。」
『まったく欲情しない誘いをありがとう月。』


「まったく。」
『やれやれだね。』


自称爽やかに、口喧嘩をしていた筈なのだが。
いつの間にか二人の間で同じ結論に達したのか二人はそっと愛しき姫を寝かす部屋を出て行き。


広い庭を足元に気をつけながら散策する。


「いい眺めだ」
口角上がる月に。

『可愛いげある犬を放したらさぞ賑やかになるだろうね。』
甘いマスクで睦言囁くような雪。





犬を放したら賑やかになるだろう庭には、もう一人男がせっせと庭仕事。


『「精が出ますね庭師さん♪」』


「誰が庭師だって?」

先程まで雪ら二人がしていたそれと同じ上っ面にこやか顔が、ゆっくりと振り向き。手は土がついている。


庭師もといもう片割れの花に近づいて、雪も月も身を屈め。



『土いじりはいいものだね。』
心を穏やかにする・・・。


と更に後付けすればぴったりだろう声音の雪が、そう口にすることなく手に持っていたワイヤーを花に手渡し。


「本当、心が洗われるようだ。」

花が長さを正確に計り、パチンパチンと、ワイヤーを切る様に、
美しい植物の花を眺めるかの如く目を細める月。


「さあ、早く完成させて犬を放とうか。」


三人背を曲げ腰を曲げ、ワイヤーを予定した場所へ張り巡らせれば。


「来たね」
『可愛い犬が』



それは犬か、犬の手綱を引く人間か、、、


花と雪の会話を聞きながら腰を上げた月は、






「帰っていいよ。」


ご苦労と労う言葉もないまま、深夜、呼び出された可哀相な男、楸瑛にそう短く一言そう告げ。手綱を受けとった。





「さあ、ケルベロス。かぐや姫をしっかりと護るのだよ?」


勿論三つ頭ではないそれを、雪ら二人から離れ広い庭の何処かへ消えて行く・・・






「あの子、犬は平気?」

可愛いげのある犬は恐ろしく尖った牙を持っていて。眼も鋭く光を持っている。


『怖がってくれた方が、庭に降りてくれなくて済むだろう?』


広い屋敷の庭に巡らせた、
対邵可用のトラップに引っ掛かっては困ると雪はクスと笑った。








見張りは交代制で一晩づつ。

来るなら来てみろと不適に笑った。




ケルベロスもどきの、月が連れて行った三匹のドーベルマンよりもギラつく瞳で...





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