闇中

□揺れる心
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「愛しき姫さんっ、」


品の良さそうなスーツに下に溜まった泥水が跳ねる事など関係ないと、先程とは違う男が駆け寄って来た。





愛しき姫には既に時間感覚など分からぬとも、
カフェにある大きな時計は30分の時が過ぎ、

愛しき姫の身体は冷たく震え。


席に忘れたままのバックを手渡しに来た店員、傘を差し出した見ず知らずの客、なにあれと笑う品の悪い女の客、

その全てを閉ざしたまま立ち尽くしていた時、

愛しき姫はそう男に力強く抱き寄せられ、


「雪・・・さん・・・」


「場所を移動しましょう、」


愛しき姫は雪に促されるがままに、目の前に止まっていた車に乗せられその場から離れた。


手には浮気証拠の写真が入った封筒を握りしめたまま・・・。









‡‡‡‡‡‡‡



「晏樹、お前と言う奴はっ、」

「だって皇毅、君は彼女の事が好きなんだよね?」

いつものような、昔ご近所の頼れる皇毅お兄ちゃんなんかじゃなくって、

「一人の女の子として、」

君の目を盗んで掻っ攫っちゃう人が居るなんてと思ったケド、


「あの男、怪しいよね〜♪」


「黙れっ、」


「この間久しぶりに遊びに来てもらえたかと思えば、"夫婦"のお悩み相談、」


お人よしだね君はと、晏樹は楽しそうに目を細め笑った。



自慰を教えてどうだった?、

愛しい彼女の喘ぎ声はどうだった?、
最後には愛する夫の名を呼びながら果てられる最悪なオチだったけどと、晏樹が口にしたと同時に、

人気の無いオフィスの会議室で、書類の束が中を舞い、
皇毅は凍てつく視線でつかみ掛かったが、・・・・・・ややあって舌打ちし、そのまま手を離した。


「君のオモイビトはとんでもないモノばかりものにする。
紅家の次は藍家、クスッ、凄いね♪」

「何が言いたい!」

「あの後、血相を変えた藍家のお坊ちゃんが愛しき姫を車に乗せさらって行ったよ。」

「なんだと?」

「もしも僕の予感通り藍家もものにしたとなれば皇毅、君はますます愛しき姫に手が出せなくなっちゃうね、
クスッ、可哀相な皇〜毅♪」

失せろっと言った皇毅の言うままに、晏樹は笑いながら窓際から会議室の扉まで移動し、
















「勝てない相手と分かっていながら君が噛み付くと言うなら・・・・・・」






ーー協力してあげるよ。



皇毅に背を向けたまま、おちゃらけた笑みを消し、珍しく真顔でそう言うと、

再び笑顔を貼付けて晏樹は会議室をあとにした。








‡‡‡‡‡‡‡



「愛しき姫さん、着替えを用意させたからどうぞ・・・、」


「私・・・、」


「話は後ほどゆっくりと聞きますから、今は着替えてください。お願いです。
愛しき姫さんが風邪をひいてしまう。」


手を引き自分の家まで連れて来たものの、
悲しい瞳のまま、まるで自分なんてどうでもよいというように動けずにいる愛しき姫の姿に、

雪は悲しそうに眉を寄せ、


断りを入れずに、立ち尽くす愛しき姫を横抱きにし、浴室へと連れて行った...。






2010.08.06.


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