闇短

□ヴァンパイア1
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姫君がその問いに頷くのを見て、セバスチャンはやはりと頷き。それで体に異常は無いものかと尋ねた。



その問いに何故か姫君は・・・

体は何ともないとだけ答えるつもりだったのに、、、

家族には言えなかった、自分の中の奥底にずっと押し止めていた思いが、堪らず勝手に口を割って溢れ出ていく。





父様は、若い頃に実家の館を追い出されたと聞きました。
それに加え追い打ちをかけるように、娘である私はヴァンパイアなのに、血を飲めない異常異質。

追い出された上、もっと肩身の狭い思いをさせているはず・・・。

静蘭だって、私が普通のヴァンパイアたちのように血が飲めていたのなら、苦労だってしなかった。
毎朝血を運んで来る彼に、私は我が儘な、可愛くない態度ばかりとって・・・。

体を壊すまで酷使していただなんて、気づきもしないで。

静蘭は、父様と主従関係を結んでいるとはいえ、、、

私は、主として・・失格ですね−−


そして、


家族として足手まとい−−−


甘え頼って。

大事な家族には心配も無理も沢山かけてばかり・・・・・・

静蘭も−−姉様も−−父様も−−

血が飲めるのに、私は飲めない、


私だけが飲めない。


だからきっと・・・



「私は・・・ニンゲンかもしれない・・・」



もしかして私は、余所で拾った・・・人間の子じゃないかって・・・










「...私には、三つくらいまでの小さかった頃の記憶が無いんです。」

自分は本当にヴァンパイアなのか不安で恐くて堪らない。





そう悲しそうに・・・姫君はいつの間か頬を伝っていたそれを、、、
一筋・・・また一筋と零しながら話し終えた。




セバスチャンは、
姫君の心痛を察し、そしてそれを和らげるように琥珀の瞳を柔らかく細めて。
邵可に連れられ出会ったばかりのどこか無愛想ともとれる無表情な顔ではなく、
その顔に、姫君を包み込むかなような柔らかさを刻んだ。


「人にも様々な種が居るように、我々吸血一族も同様。様々な種が居て当然だと思います。」

そう言って白い手袋をした手を伸ばし、無礼にも許しを得ず、その髪に優しく触れ。


「それにもし、仮に拾い子だとして・・・・・・」

そこで一度言葉を途切らせ..耳元に顔を近づけ


「それが何だと言うのです?」

吐息を耳に掠めそう口にし、顎を掬い視線を真っ向からぶつけ絡めた。


「確か私の記憶に間違いがなければ、静蘭と言う男は拾われてきたのではありませんか?」


ならば彼も、お館様方からすれば、本当のところは不要で悩ましい存在だと言うのですか?

と、付け足し口にすれば、
姫君は違うと即座に否定し。

拾われた子云々より、もしも自分の本当の正体が人間だった時、、、
やはり人間は要らないと言われ此処を追い出されてしまえば、自分はあてもなく一人ぼっちになってしまうと...

目の前のセバスチャンに縋るように腕を伸ばししがみついた。



その反応にセバスチャンは、眼鏡の奥の琥珀の瞳を揺らし


「やはり随分と思い詰めていたようですね。」


涙で赤くなった瞳で視線を向け首を傾げる、姫君の涙跡に指を滑らせ。


「俗にいう"押して駄目なら引いてみな"と言うではありませんか」


更に頭にはてなを浮かべ目をぱちくりとさせる姫君に、
黒縁の眼鏡のブリッジを中指でクィッと持ち上げながら、最後にもう一度微笑み。

その表情を名残惜しむ間もなく、彼はまた出会った時のような無表情へと顔を戻し、
目を冷やす物を持って参りますと、身を翻し部屋をあとにした。






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