紅華

□紅華9
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「めでたしめでたし」

そう桃太郎を一気に読み上げた紅華は、最後のめでたしめでたしを口にすると、
本を読むのを口実に俯いていた顔を上げ目を閉じている流蛇をの様子を窺い見た。


「・・・・・・。」

目を覚ましてくれない・・・いや、開けてくれない流蛇の様子に、紅華はどうしたものかと顔色が曇る。

流蛇はあの時のリスなんかよりも利口で沢山の知識がある。だから、リスが行き着いて出した答えと同じ言葉を既に導き出していたのなら・・・

紅華は大人の姿のまま再び顔を俯かせ唇を噛む。


一方その頃当の本人である流蛇は薄目でチラと見てしまったモノを見、一人混乱していた。

誰かの話し声が聞こえ、目は開かずとも意識ははっきりとしていた。体が言うことを聞かず、そのまま寝台に身を預けていれば・・・



ーー読んでやれ


桃太郎に意図して込められたかそうでないかは確かではないが、その意味を知り胸が熱く焼け付くような感じがし。
やがて近づいて来た紅華が、桃太郎を俯いて早口のまま読み上げる隙を狙い薄目を開ければ、焼け付くような胸の感覚は体全体へと瞬時に広がった。
紅華が悩み困ったような顔をしている等と判断もつかぬままに目を意図的に閉じれば、紅い伏せ目がちな瞳が瞼の裏から離れずに、呼吸が苦しくなる。


やがて、そんな息遣いの来るしそうな流蛇に、紅華は再度唇をギリッと跡がつくまでに噛み、次いで唇を開くと・・・


「・・・ごめんなさい。でも、嫌いにならなぃ、で・・・」


その一瞬垣間見た瞳とはまるでそぐわない声音に流蛇は条件反射のようにカッと目を見開くと、、、


「っ・・・」


流蛇は人外の速さで紅華の腕を取り寝台へと押し付けた・・・・・・その潤んだ瞳を見てしまったがばかりに。



「流蛇っ、」

あまりにも握られた腕が痛くて、やはり怒り怨んでいるのかと声を上げれば。

視線が直接絡まった瞬間、紅華は真っ赤な焔のような紅の瞳を見てそれからほどなく・・・。流蛇の聞いた事もないような苦悶の息遣いと荒々しく衣を順序なく引っ張る感覚に襲われながら、紅華は意識を手放した.....



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