紅華

□紅華9
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あの、国を覆い尽くすような鬼たる魑魅魍魎。
飼い犬を従えたソレと、鳳凰の背に唯一乗れたあの御方。

"サル"はきっと知らぬだろうが、鳳凰が主以外に近づけたのはサルだけだった。
懐きこそはしないものの、存在は認められていた筈だ。
抜けかけの羽を一枚貰ったとキッキとはしゃぐサルを見て、
皆、目の球が飛び出る程驚いたのだから....。


ゆるゆると頭を振り、霄は昔の思い出に苦笑すると、
「読んでやれ」と、"桃太郎"の名を紅華から貰っていたかもしれなかった男を顎でさし。

静かな息をし、瞼を閉じ眠ったまま寝台に横になる男の元へと移動し。
桃太郎を読み聞かせ始めた紅華を見ながら、
霄は「じゃあな」と紅華に言って姿を消しながらも胸の内で男を笑った。







・・・・・・桃太郎となりえたのに、その名より別の名を欲した馬鹿な男に。



流蛇の名を貰ったその時点で既に、男は桃太郎には成り得なくなったのかもしれない。

流蛇の名を貰ったそれ以降でも、もしかしたらこの男は、彼以来現れる事の無かった桃太郎と成り得ているのかもしれない。


それは紅華にしか分からない事だけれど、、、


桃太郎の話しをあ奴が書いて以来、"桃太郎"とは紅華にとってあの方の代わりに成り得る・・・そう言う存在なのだと霄は男を嘲笑った。悔しい嫉妬を交えながら・・・。






ーー・・・馬鹿な男よ。流蛇。



紫州に身が戻ると、霄は誰も居ぬ部屋でそう独り呟き。

あ奴が初めて書いた桃太郎の原本を自室にある木箱から出し・・。

サァァッと窓から吹く青風と共に、思いでに浸る。

キジを従えた気高い青年と、犬を従えた"サル"でなく絶世の美女。・・・の原本本来の話しを・・・。

紅華を膝上に乗せて背後から優しく抱擁するように腕を回している様は、・・・端から見ている者は見とれてしまう程で。
笑みを二人で浮かべ読んでいた蒼玄と紅華の光景の・・・ちっとも古びない思いでを・・・。

古びた本に詰めて、古びた木箱に押し込み蓋をした。



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