闇短

□風邪にはご用心を...
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黎深は邸の回廊を黙々と歩き足を進めていく・・・




時同じくして紅邵可も邸に寝かせたままの娘が気になり邸へと戻って来たのだが・・・そこで見たものは世にも奇妙な現象であった・・・




女の子をしっかりと横抱きにしながら回廊を歩いている弟の姿だった・・・


邵可はあの黎深が・・・と我が目を疑った。

が、ずっと突っ立っている訳にもいかず後を追い、


「黎深待ちなさい」

と声をかけるが、あろうことか黎深は背後から掛けられた兄の声を耳にすると、
スタスタと足を早める。


「黎深!」

そうもう一度呼ぶとビクッと肩が揺れバツが悪そうに後ろを振り向く・・・



「あっ兄上・・・奇遇ですねこんな所で会うなんて」



「うん?そうかい?ここは私の家なのだけれどね...」
と邵可は苦笑した。

「その子をどうする気だい?」



「・・・連れて帰ります。」



邵可は弟の口から思わぬ言葉を聞き鈍器で側頭部を殴られたような気分だった。



「黎深・・・君がその子を預かるのかい?」



「預かったりなどしません。この娘はさっき私の義娘となりました。では私は娘を邸に連れて帰ります。では・・・」



「は・・・?」

邵可は最早黎深についていけない・・・

しかし姫君を抱き上げる仕草や手つきを見て、きっと大丈夫だろうと弟を信じてやる事にした。


最悪百合姫が何とかしてくれるだろう・・・とヒドイ事を言いながら・・・





それからだ・・・と

黎深は横たわり瞳を潤ませる姫君を見る。



あの後起きた姫君は私が少し席を放した隙に百合に何か吹き込まれ、私の顔を見るなり逃げ出そうとか弱い体で抵抗した。

"邵可さんの所に帰して..."そう懇願して、


「邵可"様"だ!私の事は、ちっ・・・ち・・・ちち・・・ゴホンッ好きに呼べっ!」
そう宣言しまだ抵抗を見せる姫君を寝台に寝かし付けた・・・



そして今の姫君は邵可を良く思わない・・・まぁ黎深への態度だけの時と言う限定的な時だけだが。



邵可邸に度々姫君を引き連れこっそりと訪問をすると、
冷たくあしらう邵可をヒドイと言ってプイッと頬を膨らませる。

黎深は姫君に限っては怒りもせず、
邵可もまた黎深を大事に思い幼いながらも懸命に護る姫君に頬を緩める。



それからと言うもの姫君は黎深が邵可邸に行くつどついていき、黎深を邵可から護っていたのだ・・・


黎深様を護れなくなるから・・・と言った姫君・・・


当たり前だ、連れて行くわけが無いだろうが!

お前の風邪の看病の方が優先で、兄上の邸に遊びに行けるわけが無いだろう・・・
だから護る必要は無いんだ・・・


と黎深は愛しい娘に向かって言った。・・・・・・心の中で。



「姫君」


「はい」


「医者に診てもらったらちゃんと大人しくしているんだぞ」

ビシッと扇を額に突き付けそう言った。


「私は大丈夫です。だから・・・私も黎深様と一緒に邵可様のお邸へ・・・」



「煩い!大人しくしていろ」


黎深にそう言われると姫君はシュンと小さくなる。

これは姫君の小さい頃からの癖だった...普段怒らない黎深が怒ると決まって姫君は体を小さくする・・・

勿論その怒る原因は黎深の過度な嫉妬によるものなのだが・・・


(兄上の所にいるあのいけすかない家人にうっかり姫君を見られたらどうする!
こんなに頬を真っ赤に染めて・・・誰が余所の男の目に入れてやるものか!)
と一人悶々と決意を固めている。



「姫君」


「黎深・・・様・・・」


「ふんっ、別に怒ってなどおらん」


「本当ですか?」


「ああ。」


「では私も邵可様の所に「それは駄目だ」」


「さっき怒ってなどいないと・・・」


「うっ煩い!お前は私の言う通りに大人しくしていればいいんだ」

そう言って姫君の額から扇を放しパタパタと扇で自らを仰ぎはじめた。


「黎深様・・・」



「煩い」
そうぶっきらぼうに言いながら黎深は空いた反対の手で姫君の手を握ってやる。


すると姫君は嬉しそうに頬を緩めると目を閉じる。



(さっさと私の言う通りに大人しくしていればいいものを・・・)
と黎深は心の中で思いつつ、
自分の事を心配しなついている姫君を、愛しいものを見るように静かに眺めていると・・・



コンコン

「黎深様、医者を連れて来ました」

そう扉の向こうで声がした。
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