紅華

□紅華3
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にこにこと尚も
「「せいらぁんありがとぅ せぃらぁん だいすきぃ」」

特大の笑みを浮かべたその無垢な愛らしさに

刹那静蘭の思考が停止した

純真な瞳は真っ直ぐに静蘭へと向けられ、愛すべきお嬢様たちにだいすきだと告げられありがとうと…。
嬉しさの余り静蘭は笑みが零れた。

だがしかし、静蘭の脳裏に影がよぎる・・・

少し前までは生きる事さえ苦痛で、けれど生きる為に沢山の命を手にかけた・・・たった一人残して来た弟が忘れられなくて


「ふぐっ うぅっ あにぃうえ〜 」

あんな殺伐とした所でただ一人劉輝だけが私の事を必要としてくれた。

あんな殺伐とした場所だからこそ、一人にはしたくなかった・・・

だからこそたった一人劉輝の為にだけに生きた
沢山の悪に身を染めて
沢山の罪に我を失いそうになっても失わずいられた
死んだ方がましだと幾度となく思っただが私には劉輝がいた。

私には劉輝さえいればよかったはずなのに、こんなにも大切にしたいと思える存在が出来ようとは・・・

凍りついた心をゆっくりと溶かしていった紅華お嬢様に秀麗お嬢様
旦那様に奥様
私はなんて幸せなのだろうか

しかし、だからこそ私がここにいてもよいのだろうか、幸せに胸の内が軋む。




「かぁさま せぃらんどうしたの?」
と秀麗が問い

「とぅさま せぃらんは いろけよりくいけなのぉ? お花きらい?だめぇ?」と少しずれた問いをかける紅華

しかし本人はいたって本気、真剣である。

二人は静蘭が黙りこんでしまい不安になる。

「ほんに世話がやけるのぅ」

そう言うや、細君は不安がる秀麗と紅華の頭をひと撫でしてから立ち上がり、静蘭の方へツカツカと近寄り。


「イタッ!、、、おっ奥様!!」

細君は静蘭の両頬を軽くつねったまま
「そなたが黙りこくってしまって二人とも心配しておるぞ」
そう告げて。

ハッと我に返ると真っ直ぐに見上げる二人の瞳が不安気に揺れ今にも泣き出してしまいそうだった。

紅華にいたっては、まだ色気がどうの食い気がどうのと大真面目に聞いている。

「せいらぁ うぅ おはないやぁ?
おたんじょうびのおはなっ
ふぇっ おまんじゅうのほぅがよかった?」


誕生日・・・?
いやっ私の誕生日は・・・

『静蘭、紅華がね、
静蘭の誕生日はいつか?って聞いてきたんだ、ほんの数日前にね。
いつも遊んでくれるからお返しがしたいって、そう言って。』

「“静蘭”には誕生日はないと妾が告げたら、紅華が静蘭と初めて会ったのは寒い雪の日だったからと言い出してなぁ、」


まぃとし はつゆきのひぃ せいらぁ たんじょうびするぅ きめたぁ


「と言い出したゆえ。今日は初雪。そなたの誕生日じゃ。
そなたが我が家の家族になった日。」

ふふふっ
そう言いながら薔薇姫は目も眩むような笑顔を静蘭にしてみせ。

「「せぃらぁ にぃこぉ〜 ないちゃ めぇ〜 」」

『久しぶりだね。昔は一日一回は笑顔の時間だったのに。
今の君には必要ないね』

そう優しく呟く邵可は静蘭の肩に手をそっと置いた。




「「きゃっきゃっ」」

二人は嬉しそうに笑う。

静蘭の笑顔を見て。

静蘭は笑う


素晴らしい家族に出会えた喜びと、心優しき紅華に会えた幸せを。

今はまだ幼く自分にしてくれた事が、どんなに素晴らしい事か解らないかもしれない


私は生きていく。
冷たい雪も凍える寒さも、あなたが居れば辛くはない

ちいさなあなたが救ってくれた。大切な家族だと。

私は生きる。劉輝や
秀麗お嬢様、旦那様、奥様


そして、大切な私の紅華お嬢様のために

今日は“私の”誕生日。
あなたがくれた大切な日。


心からのありがとうを、ちいさきあなたへ


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