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□帰る場所
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ゴツッ・・・ゴツッ・・・ゴツッ・・・


規則的とも不規則的ともとれる鈍い音に、楸瑛はそれが聴こえてくる部屋を導き出すと歩みを早くしその扉を開けた。



ゴツッ・・・
ーーくそっ


ゴツ・・・
「止めないかっ」


くそっと小さく口から吐き出しながら音を出していた張本人の肩に触れ・・・


「俺に触るなっ」

「(・・・私がもう少し早く・・・)」

苦しそうに声を返した友人の姿を見て、楸瑛はきつく眉を寄せた。


「くそっ、くそっ・・・、やめろと言ったのに・・・」

そう何度も言ったのに・・・・・・と、


ずっと机子にぶつけてでいただろう額から血を滲ませながら、
彼、絳攸は表情をくしゃくしゃにして両の手をギリリと固く結ぶ。


「・・・絳攸」

腰紐はつけているものの胸元は少しばかり左右に開かれ、その白く薄く平な胸元にはその肌にそぐわぬ小さな点がひとつ・・・・・・赤い跡が汚していた。

「大丈夫・・・大丈夫だよ絳攸。私がついているから。」

顔も分からぬ女人への憤怒の怒りを腹の底に沸々とたぎらせながら、楸瑛はそう口にしたが。


「何が大丈夫だっ・・・。遅いんだ、、もぅ、、遅い、、、俺はっ・・・オレハ、、、アノオンナニ、、、」


そう強く睨みつける瞳が、言葉にしながら徐々に硝子玉のような無機質な瞳に変わっていく感じに・・・



「絳攸っ、大丈夫だ。もう終わった事だ。もう誰も君を傷つけないよ。」

もう二度と傷つけさせはしないさと、一人頑なに意を固め、震える絳攸の身体ごとその両腕の中に収める。



「だから・・・だから、、オレハオンナガ・・・」

涙など流すまいと、泣き出しそうな瞳で必死に耐えるそのの姿。
楸瑛は背に回した腕で絳攸の背をトン・・・トン・・・と優しくたたき。


「迷子の君を捜すのは私の役目なのにね。・・・遅くなってすまなかった絳攸・・・。」


そう言い一度抱きしめていた腕を解き開けて肌が覗く袷目を正そうと手を掛ければ、その指先が僅かに白い肌に触れてしまい・・・


「ゃめ・・・」

だから触るなと言っただろうと、不規則な息をしたまま別な意味で潤んだ瞳で睨みつける。


「すまない絳攸・・・」


出世を企む馬鹿な奴らの誰かが酒宴の席で嵋薬を盛り・・・。さらには逃げ出した絳攸に娘をあてがい・・・。

「・・・・・・(・・・すまない)」

そんな跡が見えるその白い肌に映る赤を隠してしまいたくて、楸瑛は衣に手を掛けたのだが、肌を掠めた指先に絳攸が身を跳ねてしまう。


「くそっ・・・」

見るな、他所へ行け、さっさと出ていけ・・・と、
つらつらと言葉を苦悶の表情で口にする絳攸に、
楸瑛は、絳攸と落ち着かせるように名を呼びながら離れる事なく彼を腕に閉じ込め。
乱れた髪をくしゃりと撫でて、そのままコドモにするようにヨシヨシと頭を撫でた。





「馬鹿かお前は。」
触れるなと言ったのに・・・、出ていけと言ったのに・・・、

絳攸は楸瑛のその甘やかすような手つきに、


「あとで豆腐の角にでも頭ぶつけて全部忘れろよ」

そう言うと楸瑛の言葉を待たずしてその肩に頭を乗せ、
浅く乱れる呼吸のまま楸瑛に身を任せるよう力を抜き、そのまま力の抜けた身体をだらりと預けた。


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