闇短

□ヴァンパイア1
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「絶対に嫌よ。」

「そう仰せられましても。どうかコレをお飲みになって下さい。」

静蘭が手にするモノにチラリと姫君は視線を向けたが、
断固たる拒絶を瞳が語っていて、静蘭はハァと溜息した。

そんな姿を見て、姫君も心底悪いとは思う・・・
だが、無理なモノはどうしても無理だと、静蘭に口で抗う他無かった。


「お米が嫌いな日本人だって、
カレーが嫌いなインド人だって、
サンバが嫌いなブラジル人だって、
ナンパが嫌いなイタリア人だって、
だから・・だから・・・・」



だから・・・。



「血が嫌いなヴァンパイアがいたって・・・」



「血が苦手なのは分かっています。ですが・・・」


静蘭は、血が並々と注がれているグラスをサイドテーブルの上へと置き。

「せめて少しだけでも・・・」

自分の人差し指の先をグラスの中に浸し、姫君の口許へと向け。

「失礼をお許しください。」

顎に手を添え上向かせると、血の付着した指先を下唇を割り口の中へと押し入れた。


「っ・・・」

「お許しを・・・」

血のその味に、姫君はあまりの不快感に顔を歪め。

静蘭は、その表情を見ながらも、指先の血が押し当てた舌先に消えていった事を確認し、
もう用済みのグラスに入っている血と共に部屋を出ようとする・・・。


その背に


「・・・ごめんなさい。」


小さな声音の謝罪が漏れ


「姫君お嬢様が謝罪を口にする必要はありません。悪いのは全て・・・私なのですから。」

静蘭は頭を深く下げ部屋の扉を閉めた。








‥†‥†‥†‥†‥


『静蘭、少しいいかな。』
姫君の部屋を出てすぐ、静蘭は主である邵可に呼び止められ足を止めた。

『話があるんだ。』

困ったように笑う主に、静蘭は何があったのだろうかと、大人しく邵可の後をついていく。



「あの・・・」
『話は私の部屋で。』

後ろをついていく途中、
言い知れぬ不安感に駆られ静蘭は声を掛けたが、
邵可にそう言われ、はい…と、返事を返し今度こそ黙って後を歩く。


感じた言い知れぬ不安感は・・・、

この後部屋で話される言葉が、あまりにも残酷なものだと物語っていて・・・。





『静蘭、君にしばらく暇を出すよ。理由は分かっているね?』

「旦那・・・様・・・」

『代わりの執事も決めてある。だから暫くの間この屋敷に君は必要ない。』


そうはっきりと告げられ言葉を失う静蘭に、
君は優し過ぎると諭しながら、棒立ちになっている彼にお茶を出してやり、半ば無理矢理に椅子に座らせ話を進めた。





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