いち

□笑顔の裏
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彼の笑みには何が隠されているのだろうか。そうやっていつも笑顔でいる彼に、悩み事だったり悲しみだったり、そういう顔を歪ませるような類の感情はあるのだろうか。
あたしには、わからない。彼の笑顔が本当に心からの笑顔なのかどうかも、あたしにはさっぱりわからない。だけどそれは決してあたしが悪いわけじゃなくて、あたしに本音を教えてくれない彼が悪いんだとあたしは言い張りたい。そんなことをしたらあたしの輝かしい未来が一瞬にして壊されてしまうかもしれないってことくらいわかっているんだけれど。


君って、何考えてるの?


それはあたしが彼に最も聞きたい言葉だったはずなのに、まるであたしに非があるみたいに悪びれもなく彼は言った。しかも、笑って。
「気になるんだったら当ててみてよ。」言い返してみたら、わからないから聞いたんだよ、と彼は言う。考えてみてもいないくせに、何故そんな言葉をすんなりと吐き出せるのかいつも疑問に思うけれど、それを口に出さないのもまたあたしの未来のため。


じゃあ、先に臨也の気持ちを教えて。


言えば、壊れたように彼が笑い出して、それから真剣な目であたしを見た。もしかしたらこんな真剣な彼を見るのは初めてかもしれない、と胸が躍っているあたしがいる。ふと、手を握られた。優しく、強く、あたしがどこにも行かないようにと。


君のことしか考えてないよ。


そう言っていつもの調子で笑顔を作る彼を見て思う。やっぱりあたしには、彼が何を考えているのかさっぱりわからない。彼が、臨也が大好きであったとしても。



(101029.闇†風)

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