連載『いつかマた!』(新)
□『願うようには動かない。』
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瞼の裏側に映像が見える。
直接、脳に届いてるような気がする。
目では無くて脳が見ている。
おかしな事だけど、どう説明したら良いのかわからないので、村田には相談もしていない。
勝利だと馬鹿にされそうなので、話す気にもならない。
生活に困る程見えてるワケでも無いので、だんだんと異変にも慣れて来て何とも思わなくなる。
ただの気のせい・・・と思い始めた。
テレビを見てると見覚えのある場面が出て来た。
芸能人の婚約会見。
幻でチラっと見た。この人達だったのか。今始めて名前を知ったのに何故、この人達の映像が見えたんだろう?
どうやら、無関係の人達の婚約を予知してたって事か。
幻の意味がわかった時の脱力感と来たら・・・、何の役にも立ちゃしない・・・。
『王を支えるのが、俺の役目ですから。』
幻から声が聞こえた。
『えっ、村田。何か言った?』
『渋谷、だからさ。シャツの色だけど、赤と緑、どっちが似合う?』
男2人で街へ行った時、人並みの中で声じゃない声が聞こえた。
『えらく派手な色だな。そんなの着るの?』
『その、ぜんぜん興味なさそうで、早くしてくれオーラな声どうにかしてくれる?
少しは楽しもうよ。』
『男2人で来てさ、どこをどうしたら楽しめるんだよ。』
『仕方ないだろ。彼女居ないんだから。』
『そうなんだよな。はぁ〜。』
村田は持っていたシャツを戻して、店から出ようと、おれの腕を握った。
『ゆっくり話が出来る所へ行こう。』
アナウンサーのような発音で、とても真面目な声だ。
天気もいいので公園に行く。
公園もたくさんの人が居た。
声が聞こえた。
『良かった。また会えて。』
声の主を探すが、見当たらない。
涙が溢れて来そうになる。
『渋谷、どうかしたの?』
『何でもない。何でもないよ。』
声が聞こえたのは、おれの望みなんだ。帰りたい、会いたいと思ってるから・・・、地球に帰還してから夢であって欲しいと、いつも思ってるから。
だから、声が聞こえたんだ。
おれの居るべき所は地球じゃない。
違和感は日が立つごとに大きくなり、ここに居るのが苦痛で、おれは異邦人だと感じていた。
ベンチに座り、どうにもならない心を抑えようと両手で顔を覆う。
心を落ち着けて笑顔を見せないと、村田が心配するじゃないか。
固く目を閉じた。
瞼に映像が見えた。
衝撃を受けて立ち上がった。
良くない事、とても不吉な事が起きる。
おれは道路に向かって走り出した。
『渋谷。』
村田の慌てた声が、後ろで小さく聞こえた。
地球の同じ空間に居るのに、おれだけ別の空間に入った感じがした。