連載『いつかマた!』(新)

□『願うようには動かない。』
2ページ/6ページ

 2

瞼の裏側に映像が見える。
直接、脳に届いてるような気がする。
目では無くて脳が見ている。

おかしな事だけど、どう説明したら良いのかわからないので、村田には相談もしていない。
勝利だと馬鹿にされそうなので、話す気にもならない。

生活に困る程見えてるワケでも無いので、だんだんと異変にも慣れて来て何とも思わなくなる。

ただの気のせい・・・と思い始めた。

テレビを見てると見覚えのある場面が出て来た。

芸能人の婚約会見。

幻でチラっと見た。この人達だったのか。今始めて名前を知ったのに何故、この人達の映像が見えたんだろう?

どうやら、無関係の人達の婚約を予知してたって事か。

幻の意味がわかった時の脱力感と来たら・・・、何の役にも立ちゃしない・・・。

『王を支えるのが、俺の役目ですから。』
幻から声が聞こえた。

『えっ、村田。何か言った?』

『渋谷、だからさ。シャツの色だけど、赤と緑、どっちが似合う?』

男2人で街へ行った時、人並みの中で声じゃない声が聞こえた。

『えらく派手な色だな。そんなの着るの?』

『その、ぜんぜん興味なさそうで、早くしてくれオーラな声どうにかしてくれる?
少しは楽しもうよ。』

『男2人で来てさ、どこをどうしたら楽しめるんだよ。』

『仕方ないだろ。彼女居ないんだから。』

『そうなんだよな。はぁ〜。』

村田は持っていたシャツを戻して、店から出ようと、おれの腕を握った。

『ゆっくり話が出来る所へ行こう。』

アナウンサーのような発音で、とても真面目な声だ。

天気もいいので公園に行く。

公園もたくさんの人が居た。

声が聞こえた。

『良かった。また会えて。』

声の主を探すが、見当たらない。

涙が溢れて来そうになる。

『渋谷、どうかしたの?』

『何でもない。何でもないよ。』

声が聞こえたのは、おれの望みなんだ。帰りたい、会いたいと思ってるから・・・、地球に帰還してから夢であって欲しいと、いつも思ってるから。

だから、声が聞こえたんだ。

おれの居るべき所は地球じゃない。

違和感は日が立つごとに大きくなり、ここに居るのが苦痛で、おれは異邦人だと感じていた。

ベンチに座り、どうにもならない心を抑えようと両手で顔を覆う。

心を落ち着けて笑顔を見せないと、村田が心配するじゃないか。

固く目を閉じた。

瞼に映像が見えた。

衝撃を受けて立ち上がった。

良くない事、とても不吉な事が起きる。

おれは道路に向かって走り出した。

『渋谷。』

村田の慌てた声が、後ろで小さく聞こえた。

地球の同じ空間に居るのに、おれだけ別の空間に入った感じがした。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ