『小さなお話』

□『時のしずくがこぼれる・・・。』
1ページ/7ページ

  『果たし状、または、嫌がらせ、い・じ・め!』

渋谷有利が、つぶやいている。

 よほど、悔しいらしい。

 靴箱から、ドサドサと手紙が落ちてくる。

 他校の生徒達からだ。

 何故、今時、手紙なのか?

 渋谷有利が、携帯を持って居ないからだ。

 う〜ん、うなってる。

 どうしたものか、頭を抱えている。

 きっと、捨てられず、持って帰るんだろうな。

 その手紙は、俗にいうラブレターなのだ。

 女の子からなら、大喜びなのだが、どれも男から

 それが問題なのだ。 

  幼い頃からずっと、男から言い寄られるそうだ、

 ただ、嫌がらせでも、いじめでも無く、マジメに

 渋谷を女の子だと信じて、書かれてくる。

 名前も、ゆうり、なんて女の子に、間違われそうな

 名前なのでなおさらだ。

 渋谷有利にとっては、嫌がらせの方が気楽なんだろ

 う。マジメに、間違われる事の方が、ショック

 だろうと思う。

 

  可笑しな事に、学ラン着てても、どう見ても男性

 の服装を着ているのに、間違えられる。

 胸がまったく無いのに、間違えられる。

 これだけ、続くと本人がいい加減、自覚しそうな

 ものなのに、高校1年になった今も、ラブレター

 に、怒りまくる。

 彼は、自分の容姿に対して、どこまでも無自覚

 なのだ。


  『アスミ?また、渋谷君の事、書いてんの?』

 『だって、かっこいいだもの。』

 『珍しいわね。彼の事、可愛いて言う人は、たくさ

 んいるわよ。かっこいいなんて、アスミだけ

 だよ。』

 『すごいんだよ。渋谷君て、人助けたくさんしてる

 し、ラブレター多いし、人気あるよね。』

 『ラブレター?男からでしょ!

 みんなさ、女だと思ってるんだよ。』 

 『渋谷君、わたし、助けてもらったから。

  本当に、好きなの。』

  
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ