『小さなお話』

□『プレゼント+』
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      ここの所、毎日ユーリは城を抜け出している。

   アニシナに作ってもらった変装セットを使って、本人は

   完璧に変装しているつもりらしい。

   おれとヨザックが、見失わないようにつけているのだが、

   まかれてしまう。

   これでは、護衛の意味が無い。

   いったいどこへ行ってるのか?

   魔術を、使っているのか消えてしまう。

   見つけ出せなくなるのだ。

   出て行く時間も、バラバラで、いきなり居なくなって

   いきなり、帰ってくるので、とらえどころが無い。

   今日も、早朝から消えようとしている。

   今度こそ、どこへ行くのか突き止めよう。

ヨザックは、所用で、昨夜から出かけてしまったので、

   おれが1人で後をつける。


    城を出る、普通に警備兵にあいさつして出ているぞ!!

   あまりの、光景に警備兵に小声で叱りつけてから、後を追う!

   ユーリの後を追う。何故か、見慣れた道だ。

   この道は、確かずいぶん前にジュリアとよく歩いた道。

   なんで、この道をユーリが?

   このまま行くと、あの人の家に着く。

   今まで、何故、まかれてしまったのか?

   この道なら、見失うことなど無いのに。


   やはり、あの人の家だ。

   ユーリが、こちらに来る。おれが、つけていた事、わかっていたのか?


    『そうだよ、コンラッド。俺、ずっとわかっていたよ。

    この家さ、俺、覚えがあるんだ。

    ジュリアさんに、導かれたんだと思う。』


   そう、戦争が始まる前、ジュリアと2人で通った。

   目が見えなくても、刺繍を覚えたい!おれに、あげたいのだ。

   と言って通っていた、老婦人の先生アリアの家。

   両手を、傷つけながら、目の見える人の何倍もの時間をかけて、

   刺繍を、仕上げようとしていた。

    もう少しで仕上がる、そんな時に、あの・・・・・戦争が・・・。

   そして、ジュリアの刺繍は、未完成のまま、アリアの所に預けられていた。

   おれは、つらくて、取りには行けなかった。


    『今日で完成なんだよ。一諸に来るだろ?コンラッド。』




   『アリアさんはね、俺の事知ってたんだよ。ジュリアさんから、

    聞いていたんだって。赤い髪の少年が来て、これを仕上げるから、

    預かっておいてくださいね。と、言い残して戦争に向かったって。』


    なつかしいアリアの家。

    アリアと楽しそうに話すユーリの姿が、ジュリアにだぶって見える。


     『コンラートさん、あなたは変わりませんね。

戦争が終わっても、お見えにならないので、心配していたのです。

     ジュリアは、残念でしたね。

     この子が来た時、すぐわかりましたよ。ジュリアの言ってた少年だってね。

     ほら、こんなに素敵に仕上がりましたよ。』


    <大地立つコンラート>が、美しく刺繍されている。


    『俺とジュリアさんは、同じだからね。時を越えてようやく、仕上がったんだ。

     ほら、コンラッドへのプレゼントだよ。』


     「コンラート、ようやく、あなたへ渡せたわ。」

     ジュリアの声が、聞こえたような気がした。


    『想いは、一つで変わらないよ。』

    そう言って、ユーリは、その刺繍の施されたハンカチを渡してくれた。


    お世辞にも、上手く出来ているとは言えないが、ジュリアとユーリの

    想いが伝わって来る。


     なんて、あたたかい。



    目から、熱いものが流れようとしているが、ユーリに気が付かれないように

    グッとこらえる。


     『ユーリ、ありがとう。大切にします。』



    

      

    
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