『小さなお話』

□『前世の記憶U』
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    《眞王廟》

  「そうです。コンラート、その、小瓶に入ってる

 魂が、スザナ・ジュリアです。見えるのですね?

 わたくしも、こういう形で魂を見るのは、始めて

 です。綺麗な、魂でしょう?心に邪まな思いを持つ

 者は、見る事も叶わないそうです。」

  ウルリーケは、顔色一つ変えず冷たい瞳で、コン

 ラートに問いかける。

  「スザナ・ジュリアは、生まれ変わったとしても

 コンラートの事も眞魔国の友人達の事も、何も覚え

 ていないでしょう。

 新王陛下として、お会いした時、あなたは絶えなけ

 ばなりません。出来ますか?」

  コンラートは、押し黙ったまま、うなずいた。

 そして、愛しい者の魂の入った小瓶をしばらく

 見つめてから、答えた。 

 「どんな形であっても、再び出会えるなら、おれ

 は絶えます。」


   《そして、地球へ。》


  小瓶を大切に抱えて、地球に移動した。

 ジュリアもいつかこの苦しみを持って、次元を渡る

 のか。ジュリアの姿を想い、なぜ、こんなにつらい

 選択をしたのか。聞けば彼女は、もう、生まれ変わ

 る必要の無い進化した魂だそうだ。ウルリーケから

 聞いた。次元を渡るだけでも、こんなにつらい。

 眞魔国の王になる事にしても、大変な苦労を強いら

 れる。彼女を失った苦しみが、はるかに大きくて

 その未来を思う時、前向きにはなれなかった。

 彼女が生きていた頃、こんなに近くにはいられなか

 った。ジュリアが魂となって、始めて共にいられ

 る。いつも、彼女の魂に話しかけるが、答えが

 返って来る事はない。

 この、小瓶を渡す相手が決まるまでの時間が、長く

 寂しく、そして、ずっとこのままでいたい、そんな

 事まで考えるようになっていた。

  渋谷勝馬に、会うまでは・・・。
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