『小さなお話』

□『日常の一駒』
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    『お買い物』

       『ゆうちゃん、帰りに買ってきて欲しい物があるの。』

   「おふくろ〜!俺、タダでさえ遅刻しそうなんですけど。」

   『ママでしょ!ゆうちゃん。頼める?』

   今日は、ギリギリ起きて、何もかも大急ぎで行く準備をしている所を、

   マイペースのおふくろに、呼び止められた。

   『料理用のお酒!お願い。必要なのよ。』

   「わかりましたよ。買ってきますよ。」


    今にも降り出しそうな空だったが、俺が自転車で飛び出し、学校に

   着く頃には、ザーザー降りの大雨。

   ギリギリセーフで駆け込み、遅刻にはならなかった。

   学校に居る間、ずっと降り続いた。

   中学生の頃の俺は、こんな天気は嫌いだった。

   野球の練習もできないし、野球の事しか頭になかったし。

   でも今は、眞魔国へ行けるかも、と期待してしまう。

   水があれば行き放題という訳でも無いし、ジッサイ雨降るたびに

   呼ばれたら、俺の身体が持たないだろうなあ、と思う。

   向こうとこっちの時間の違い。帰って来てからの調整が大変だ。

   でも段々と、俺は向こうにずっと居たいと願う心が強くなって来ている。


    放課後、雨はまだ降り続いていた。

   雨なのに、いつもの池のある公園に向かう。

   何だか、行けそうな気がする。


   自転車を置いて、水たまりを覗き込む。

   胸のペンダントが熱くなる。

   行ける!今日は行けるんだ!




   『ゆうちゃん、何これ?どこの国のお酒?全然、読めないわよ。

   このラベル。でも、美味しいわねえ〜!』

   「そうか?良かったな。」


   眞魔国に3ヶ月居た俺、ある日おふくろに頼まれた買い物を思い出した。

   コンラッドに連れて行ってもらった、ワイン庫で、「これ、美味しいですよ。」

   と、見せてもらったワイン。コンラッドが飲むと言うので、俺がそれを持って

   外へ出た所に何故か、掃除用のバケツがあって、つまずいて、流れた水でスタツア。


   ワインも一諸に、持って来てしまった。

   コンラッドが、「ワインはお土産に〜!」と、言ってたような気がする。


   で、おふくろに、頼まれた買い物だよ。と渡した。

   どんなに美味しくても、ワインは飲めないし。

   びしょ濡れなので、風呂へ入ろうとしたら、おふくろが一言。


   『ゆうちゃん、お買い物失敗よ。』

   「エ〜、酒だろう?間違ってないよ。」

   『ママの頼んだのは、料理用のお酒。これは、極上のワイン。

    だから、違うの。』


   眞魔国のワインは、そんなに美味しいのか!

   おふくろ上機嫌だし。

   少し飲んで見たい気がした。


   買い物用に貰った500円玉、眞魔国に忘れてきたらしい。

   どこを探しても、見当たらない。

   チームの物を買う足しにしよう!と思ったのに。

   
   

   
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