頂いた素敵小説

□『秘密 de HIMITSU』
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そして結成一年目のこのチーム・・・
夏休み前半を有意義に過ごそうと・・・・
7月の後半・・・・祝日を加えた2泊3日で合宿を決行することにしたのだ。
この日程なら会社員のチームメイトも参加可能だし、合宿地に選んだ廃校校舎(レンタルグラウンド付き)も
簡単に予約を押さえる事が出来たから・・・

でも何せ結成したばかりの野球チーム。
懐具合も寂しいということで経費削減のため、合宿中の食事はもちろん自炊。
食料も現地で購入するより内情のわかる近所のスーパーで買ったほうが安上がりと
しこたま買いこんできた。
寝具等ももちろん持ち込み。
おかげで個人の荷物に合宿の荷物・・・チームの備品などで20人ほどは乗れるはずのマイクロバスが
人間と荷物で身動きもままならないほどの満杯状態。

社会人メンバーのコネでどこかから借りてきたそのマイクロバスを
免許持ちの仲間達が交代で運転してゆくという強行軍。
とにかく・・・・どこまでもケチケチな合宿・・・だけど車内の空気は明るく弾んでいた。

野球好きの仲間達だけの賑やかな車内・・・
今も・・・渋谷さんを中心にこれからの合宿の話題で盛り上がっていた。


若干一名を除いて・・・・・
その人は周りの喧騒などものともせず、物静かに自分の世界に浸り
(こんな大騒ぎの中ものともせずに)読書中。


「マネージャーはどうしてこの合宿に参加したですか?」
と・・・・僕は通路を挟んで反対側の窓際のシートに座って本を読んでいる村田さんに声をかけた。


色白で理知的で・・・・どう見ても野球との関連が見当たらない・・・・・
このチームのマネージャーである村田さんが手にしたサッカー雑誌をパタンと閉じ
僕を眼鏡越しに眺めてにっこりと笑う

この人も僕らの中学では既に伝説に近い存在。
何せ・・・
開校以来の超秀才で全日本模試のTOPを維持して
そのレコードを塗り替えちゃったって言うんだから
人間業じゃない。

そんな人がこのバスに乗っている・・・・もちろん関係者の一人として・・・・

「だって僕だってこのチームの一員だよ?参加することに何か問題でもあるかい?少年クン
僕だって不本意だけどさ・・・・しょうがないんだよねぇ〜・・・
渋谷を放っておいたら何をしでかすかわかんないしさ・・・・
いや・・それ以上に目を離してとんでもない事態になっちゃっても困っちゃうしね。
誰か一人は最低手綱を引くための監視役というものが必要だとは思わないかい?」

・・・・・にっこり笑っているのに・・・・何故か薄ら寒いその笑顔に怯えた迷える子羊・・・
僕の顔が微妙に引き攣った。
一介のか弱い中学生にとって彼は余りに不気味な存在だ。

第一男子高校生の渋谷さんに監視役って・・・・??

というか・・・・

「こら!村田!!貴重な新人選手をいじめるんじゃねぇよ!」
拳が村田さんの背後からその脳天に落とされた。

いってぇ!!

「いったいなぁ〜渋谷!僕が可愛い後輩をいじめると思うかい?」」
さも痛そうに顔を顰めながらあお向けに顔を仰け反らせた村田さんの視線の先に
頬を膨らませた渋谷さんががバスのシートの背に顎を乗せ顔を覗かせていた。

「お前ならやりかねないよ!?ったく・・・ごめんなぁ〜神沢」
大きな瞳をくるくるさせながら渋谷さんが俺に謝罪をしてくる。


「ひどいいわれようだなぁ・・・君の頼みを聞いてマネージャー業に勤しむ親友の僕に対してさ!」と唇を尖らせる
眼鏡の当チームの完璧マネージャー・・・村田さんを無視して、
困ったように固まっている僕にもう一度「ごめん」と謝る。
なんで渋谷さんが僕に謝るのか・・・・とも思うけど・・・

どうやら僕をおびえさせた村田さんの行動に対しての謝罪・・・ということは受け取れた。
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