幼稚園

□ひとりよりふたり
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みんながかくれんぼをしている事は知っていた。
だけど一緒に遊ぼうとは思わなかった。

静かな所にいるのが好きで、あまり大勢でいるのが好きじゃない。
話すのが苦手で、他人とどんなふうに話せばいいのかわからない。

ただそれだけの事だった。



ゾウの滑り台の穴の中で、たまに外の様子を見てみたり、地面に絵を描いてみたりした。

何か目的があってここにいるのではない。
ほどよい暗さと狭さ。
自分には居心地がいい。
だから、この場所が好きだった。


「ここにかくれてもいい?」


そんな声と共に、入口に人影が現れ、穴の中が暗くなった。
見た事のある顔が外から覗いている。
同じクラスのやつだ。
もちろん、話した事はない。


「……」


そいつは返事も聞かずに中に入ってきた。
最初っから答えは期待していなかったようだ。


「なにしてたの?」

「……」


聞かれてすぐ答えられなかった。
特に何かしていたわけでもないので、どう説明したらよいのかわからない。
喋れないわけではないのだが、やはり話すのは苦手だ。


「絵、かいてたの?」


そいつが土に描いた絵を見つけてそう尋ねてきたので、とりあえず頷いた。


「うまいね」


そいつはここに来てから崩していない、にっこりとした顔でこっちを見た。
それに対して、今度は首を横に振った。
自分の絵を上手いと思った事はない。
むしろ、他人より下手だという意識の方が強かった。

ただ、そんな事を言われたのは初めてで、何だか恥ずかしかった。


「ねぇ、名前なんていうの?おれさま、さすけ」


そいつ、…さすけは、覗き込むようにしてその笑顔をこっちに向ける。


「……こたろう…」

「こたろうか。よろしく」


何故か自然と声が出た。
すごく小さかったのだが、さすけにはちゃんと聞こえたらしい。


「みつけたぞ!」


嬉しさと恥ずかしさで俯いていると、突然外から大声が聞こえて、驚いて肩を震わせた。

外を見ると、さすけが覗いていたのと同じように、金髪の女の子が覗いていた。
その子も確か、同じクラスだ。


「かすが見つけるの早すぎ!」

「きさまがわかりやすいところにかくれるのがわるい」

「あははーやっぱわかりやすかった?」


佐助は穴から出て、見つけに来たかすがという女の子と、親しげに話している。



「あ、こたろうもやる?かくれんぼ」


さすけが思い出したように、顔だけ穴を覗くようにして尋ねた。

まさか誘われるとは思っていなかったので反応できないで固まってしまった。
そんな急に言われても、心の準備が出来ていない。

少し間をおいて、首を横に振った。



「そっか。じゃあまた今度」


さすけは手を振って、かすがと一緒に去って行った。






また今度
何だかちょっと、いい響き


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