瀬戸内
□たんぽぽ
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「好き、嫌い、好き、嫌い、好き…」
春の日差しが降り注ぐ中、慶次はたんぽぽを手に持ち、地べたに座っていた。
花びらを一枚ずつ千切っては、それを地面に落としている。
それは短い時間だが、ひらひらと可憐に舞った。
彼の目の前には、春の緑に溶けそうな緑色の服を来た元就が居た。
そのまた向こうでは、銀髪の鬼が独眼竜と何やら楽しげに笑っている。
元就は、ずっとその方向を見つめていた。
よくある風景だ。
「嫌い、好き…」
春を感じさせる暖かい風は、地面に届く前の花びらを、さらっていった。
それでも黄色い花びらは、一つ、また一つと落ちていく。
ふと、緑色がこちらを向いた。
「…!!貴様!たんぽぽに何をする!」
そんな険しい顔するなって。と言いたくなるほど怖い顔で、慶次を睨んだ。
慶次は手を休めて顔を上げる。
「え、花占い」
「他の花でやらぬか」
「何でだよ」
「たんぽぽは、日輪に似ておる」
「出た」
元就の太陽好きにも困ったものだ、と呆れて出た言葉だった。
彼にとって、丸くて黄色いものはみんな“日輪”らしい。
元就は『出た』という言葉が気に入らなかったらしく、既に細くなった目を、更に細くした。
「『出た』とは何だ?貴様、海の藻屑となるがよい!!」
「まてまて、って痛」
攻撃体勢に入った元就に対して慶次は防御体勢をとったが、いつも元親がやられているようにぺしん、と叩かれた。
「いやぁ、ほら、ホントに太陽好きなんだなーと思って」
「わかったら他の花でやらぬか」
「これくらい花びらの数がないとつまんないだろ」
「そんなことは知らぬ。他にもあるだろう」
「これがちょうどいいんだって」
「……」
どちらも引き下がる様子はない。
が、埒があかないので元就が話題転換を試みた。
「…ところで、何を占っておったのだ」
「アンタが元親のこと好きかどう…あ、」
慶次が全部言い終わる前に、たんぽぽは取り上げられてしまった。
「何すんだよ!」
「それは我の台詞ぞ。貴様こそ、勝手に占うな」
「いーじゃん、減るもんじゃないし」
「フンッ…」
元就は鼻で笑うと、たんぽぽをそばにあった噴水に投げ入れた。
彼は浮かべたつもりだったが、端から見たら捨てたようにしか見えなかった。
「あーあ、あとちょっとだったのに」
慶次はほとんど花びらのないたんぽぽを見つめて、ため息をついた。
占わなくとも、わかりきったこと。
「嫌いにきまっておる」
「嘘つくなって」
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昔の話発掘されました。