瀬戸内

□戻らない時間
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我は自分の体を見つめた。
所々に血が付着している。
殆どが返り血だがまだ新しくぬるぬるしている。
なんとも穢らわしい。






長曾我部元親。



奴は我の目先で横たわっていた。
体からは止まることを知らないようにどんどん血が溢れでている。
周りには大きな血溜まりができていた。

我が殺ったのだ…。
まだこの手に切った感触が残っている。







キ モ チ ワ ル イ 。







奴を切った時のことを思い出しただけで吐き気がする。
他の者を切った時は平気だった。
敵も。家来も。その家族も。
なんとも感じなかった…感じてはいけなかった。

だが、今回はどうだ?
何故…何故こんなにも心が揺れる?

「貴様は…いつまで我の中に居続ける気だっ…!!」

我は元親に向かって叫んだ。
勿論、返事なんて返ってこない。

これから邪魔になるから消した。
このままにしておくと我が我ではなくなると思ったのだ。
ただ、それだけではないか…。

「…なのに…貴様は…ッ!!」

まだ我の中に留まろうとする。
もし、もう一度起きてくるならば…
思いっ切りぶん殴ってやりたいくらいだ。




あの男が逝く寸前に言った言葉が頭から離れない。
「最期に元就の顔が見れて良かった」と、
笑ってそう言ったのだ。

我は元親が何を思ってその様なことを言ったのか知れない。
そして、もう話すことも出来ないのだからその答えを聞けるわけもない。




奴を殺せば我のこのよくわからない感情も消えると思っていたのだが…
とんだ計算違いだったのかもしれない。

だが、我は後悔なぞしない…
いや、してたまるか。






ならば…この目から溢れでるものはなんだろう。






わからない…。












誰か教えて

(もし、そなたが生きていたのなら答えを教えてくれただろうか…)

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