瀬戸内
□嫉妬返し
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教室の端で元親と伊達が楽しそうに話している。何だか面白くない。
何がそんなに面白いのか、二人で爆笑している。
二人とも下品な笑い方だ。
我はさっきからずっと元親に視線を送っているのに、奴は気づかない。
一瞬でいいから気づいて手を振るか、笑いかけて欲しかった。
「そんな怖い顔して、元親君と喧嘩でもしたのかい?」
突然声を掛けられ、驚いて声のした方を向くと、横に竹中が立っていた。
いつからそこにいたのか、声をかけられるまでその存在に気づかなかった。
「…そうではない」
竹中に指摘され、自分が元親達を睨みつけていたことに気づく。
確かに見つめてはいたが、それまでそんなきつい目で見ていた自覚はなかった。
「見惚れてたのかい?」
「それも違うわ。大体、怖い顔だと言ったのはそなたではないか」
「フフ、そうだね」
竹中はふわりと軽く笑った。
そして、未だ笑い転げている眼帯二人を一瞥して言った。
「政宗君だろう?」
「……」
我は返事も肯定と取れる行動もしなかった。
わかっているなら別に聞かなくても良いだろうと思ったからだ。
「…じゃあさ、今日一緒に帰らないかい?」
「は…?」
何が“じゃあ”なのかさっぱりわからなくて眉をひそめた。
竹中は何を考えているのだろうか。意図が全く掴めない。
我を馬鹿にしておるのだろうか。
「何か用事でもあるのか」
顔をしかめたままそう尋ねると、竹中はちょいちょいと指を動かしてこっちへ来いと合図をして、我の耳元で囁いた。
「元親君の方を見てごらん」
竹中の考えが全くわからないまま言われた通りにした。
すると険しい顔の元親と目が合った。
まさかこちらを向いていると思わなかったので慌てて目を逸らして竹中を見ると、彼は得意げな笑みを浮かべている。
「…竹中!」
「彼も僕を快く思ってないってことだよ」
竹中が話終えると同時にチャイムが鳴った。
彼は元親君と仲良くね、と余計な言葉を残して席についた。
「なぁ、竹中と何話してたんだよ」
放課後、元親が下駄箱の前で訊いてきた。
気にしているのだと思うと可笑しくて、元親から顔を背けて小さく笑った。
「大したことは話しておらぬ」
「何か内緒話してただろ」
「何でもよかろう」
「俺には内緒か」
「元親、」
ふて腐れた元親を見て、竹中がやったように元親の耳元に顔を近づけた。
「そなたが伊達と話しておるのは面白くない」
「……え?」
元親は鳩が豆鉄砲をくらったような顔で固まった。
恥ずかしくて顔を合わせられなくなったので、元親から離れて先に外に出た。
元親はすぐに追いかけてきた。
「もしかして、それってやきもちか?」
「うるさい」
それから元親は、いつものように我を家まで送ってくれたが、終始ニヤニヤしていてやたらくっつきたがるので、言わなければよかったかもしれないと思った。
嫉妬返し
(お互い様!)
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