瀬戸内

□天秤
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元親は我のことを好きだと言う。
ならば何故我を置いて行くのだろう?











久々に会いに来たと思えばこれだ。
この表情。
悲しいのに無理して笑っているようなそんな表情。
それから奴は我の一番嫌いな言葉を吐くのだ。






『航海に行ってくる』






「なぁ…元就?」

「………」

我は元親に背を向けながら座っている。
呼ばれているようだが返事はしてやらない。

「…元就」

「…うるさい」

「こっち向いてくれって。元就の顔が見てぇ」

「我は貴様の顔など見たくない」

今元親の顔を見てしまえば何を言ってしまうかわかったものではない。
普段は心地よい声も今日は耳障りにしか聞こえないのだ。

「…元就…本当悪ィ」

本当に悪いと思っているのか?
謝るくらいなら航海など行かなければいいのだ。
そう思うと腹が立った。

「何を謝っておる。貴様が居ずとも我には何の支障も来さんわ。それとも、貴様が居なければ我がやって行けないとでも思ったか…自意識過剰も大概にするがいい!」

一息で言い放ってやった。
室内が静まり返る。

しばらくすると、肩にずしりとした重みが乗っかった。
言うまでもなくこの部屋には我の他に元親しかいないわけで。
首に元親の腕が回る。

「…元就のこと大好きだぜ。でも俺にとっては航海も大事だから…悪ィ」

言い終わると同時にふっと体が軽くなった。
先程まであった温もりがなくなる。

「…っ……」

「じゃあ行ってくるな」

元親の足音がだんだん遠ざかって行く。
我は拳を強く握った。
もしも、「行かないでくれ」と言ったら奴はここに居てくれるだろうか?








答えは否だ。





足音は完全に聞こえなくなった。
ぎゅっと唇を噛みしめる。

「……行くな……」

もう聞こえないであろうその呟きは我一人の部屋に吸い込まれていった。












大切なのは

(我と海どっちが好きかなんて…)

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