瀬戸内

□あと何センチ?
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俺は今元就と並んで歩いている。
並んでといっても俺の方が数歩後ろに。
元就は俺の方を気にするでもなくどんどん前へ進んで行く。
もし俺が止まってしまっても気付くことなく行ってしまうと思う。




上手くは言えないけど…

元就は捕まえていないと勝手にどこかにいってしまいそうだ。
本当はずっと側に捕まえておきたい。
だからといって拒否されるのも怖いわけで。
未だに元就に触れることができないでいる。

最近では前を歩く元就の空いている手を見ると無意識で掴みたくなる。
何度も挑戦しているのだが、これがなかなか勇気がでずに掴むことが出来ずにいる。






俺はそっと手を伸ばした。
前を歩いている元就の手まであと数センチ…。

「おい」

肩がびくりと跳ね上がる。
思わず伸ばしかけていた手を引っ込めた。
しかし、元就は此方を向いているわけではない。
手を伸ばしていたなんてわかるはずもないのだ。

「なんだよ?」

努めて冷静に振る舞う。
心臓がうるさい。
内心は気づかれたかとひやひやしていた。

「いや、なんでもない」

そう言って元就はまた歩き出した。
その背中を見て俺の足は立ち止まる。

あぁ…やっぱり俺は置いていかれる。
元就は振り返ってもくれない。
俺は…また…一人になるのか?

「元就!!」

思わず叫んでいた。
元就の所まで一気に駆けると空いていた右手を掴み取る。

「……なんだ?」

元就は一瞬驚いた表情をしていた。
だが、一番驚いているのは手を掴んだ自分自身だった。
手を取ることがこんなにも簡単なことだったとは。
元就との距離はこんなにも近かった。

「…何でもねぇ」

俺は笑ってそう返した。
気持ちがすっきりして清々しい気分だ。
繋いだ手にぎゅっと力を込める。

「…そうか」

そんな俺を見た元就も僅かに笑みを浮かべている気がした。

元就はまた歩き出した。
さっきと違うのはその隣に俺がいるということ。
依然として手は繋がれたままである。




もうこの手を離すことはないだろう。












(…いつまで握っておる気だ。いい加減離さぬか)

(今日はぜってぇ離さねぇ)


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