瀬戸内

□心地好い空間
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デートしようぜ、なんて元親に誘われて電車に乗った。


田舎の電車だ、がらんとしていて椅子も空いている。

外は寒いが、ここは暖房がきいていて暖かい。
五分もしないうちに暑くなって上着を脱いだ。

それなのに、元親は我にぴったりとくっついている。
この暖かい中、がら空きの長い椅子に寄り添う姿は滑稽に違いない。
想像したら顔が火照った。






目的地は遠く、一時間もすれば話すこともなくなってしまって、お互いに黙ってしまった。
我は向かいの窓から見える景色をひたすら眺めていた。

しばらくそうしていると、椅子の上に置いていた手に元親の手が重なった。
我は突然握られた手に戸惑い、元親の方を向くと、彼は目を瞑って窓に頭を預けていた。


「…元親、」

「………」


名前を呼んでみたが返事はない。
完全に眠っている。

我の手を握ったのは偶然で、意図的にではないということだ。
そう思うと少し残念だった。


そのうち、元親はこちらにもたれ掛かってきた。
揺れる度にぶつかる髪がくすぐったくて、空いている方の手で彼の髪を触るってみた。
固いと思っていた髪は意外と柔らかかった。




もう少しこのままでいたい気もしたが、降りるべき駅は近づいていた。


「元親、起きろ」

「……」


起きる気配がないので元親とは反対方向に体を傾けた。
すると彼はずり落ちて、やっと目を開いた。


「あー…俺、寝ちゃってたか」

「我にもたれ掛かりおって。重かったではないか」

「わりぃ」


電車の速度が落ちてきたので立ち上がった。
それは元親と同時だった。


扉が開いて冷気が入り込む。
我らは手を繋いだまま外に出た。

外は、思ったより寒かった。







心地好い空間
(もう少し、そこにいたかった)

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