瀬戸内

□存在意義(続)
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元就が俺のことを忘れて十日が経った。

最初は悲しくてどうしようもなかったが、それじゃあ駄目だと思い立った。
今では毎日元就の所に通っている。

「元就ー」

「またそなたか…」

元就は呆れた声を出した。
執務をしていたようで、ちらりとこちらを見る。

俺は元就から少し離れた所に座った。
そこから元就の背中をじっと見つめる。
本当は色々と話したことがあるんだけど、実際は何を話したらいいかわからない。








俺は元就の背中を見ながら、数日前のことをぼんやり思い出していた。

「我とそなたはどんな関係だったのだ?」

びくりと肩が揺れる。
まさかそのようなことを聞かれるとは思っていなかったのだ。

元就にはあらかた説明してあった。
元就が襲撃されて馬から落ちたこと。
俺の記憶だけ失われたこと。
だが、このように深く聞かれたのは今日が初めてだった。

「………まぁ…あれだ…友達」

としか返せなかった。
自分で言っといて悲しくなる。
好き同士でした、なんて言ったって絶対信じてくれるわけがない。
むしろ全力で拒まれそうだ。

元就は「そうか」とだけ言うとその話しを打ち切った。










俺は今回のことで自信をなくした。

今までは上手くやれてると思っていた。
しかし、元就にとって俺は簡単に忘れられるような存在だったのだ。
今も元就と一緒に居ていいのかと疑問さえ湧いてくる。
ちゃんと笑えているのかもわからない。

思い出させたいのは確かだ。
だが、逆に怖くもある。
もしかしたら思い出さない方がいいのかもしれないとも思うのだ。

そんなことを考えていると元就が突然立ち上がった。
かと思うと歩き出す。

「…来い」

「どこ行くんだよ?」

俺も立ち上がると置いていかれないように元就の後を追う。

「もう一度馬から落ちるのだ」

「はぁ!?本当に怪我したらどうすんだよ!?それに…思い出せるとは限らねぇだろ?」

打ち所が悪かったらそれこそ死んでしまうかもしれないのだ。
そんな危険な目には合わせたくない。

「構わん。我は…思い出したいのだ。何もやらんよりはましだろう」

元就の眼は真剣だった。
こうなったら俺が何を言っても無駄だろう。

俺はそれ以上何も言えなかった。








元就が馬から落ちた。
痛そうな音がする。

元就は本当に再現してみせたのだ。
俺は近くで見守ることしかできない。
そんな自分が情けなく思えた。

「大丈夫か!?元就!元就ィ!!」

俺は急いで元就に駆け寄った。
軽く揺すってみる。

「っ……貴…様…何故…はっきりと言わなかったのだっ!?」

良かった。
元就が無事で。

と思ったのもつかの間…

「ぐはっ……ってぇ…いきなり何しやがる!?」

鳩尾に一発くらった。
かなり痛い。
一体俺が何をしたというのだ。

「元親!貴様、何故友達などと申した!?何故はっきりと言わぬ!?貴様にとって我はその程度か!?」

「…元就………悪ィ」

一瞬言葉がでなかった。
元就も俺と同じ気持ちだったんだ。

俺は元就を抱きしめた。
久々に抱きしめたその身体は前となんら変わっていなくて。
すごく温かい気持ちになる。

「ふん…貴様がどうしてもと言うなら許してやらんこともない」

元就らしい言い方になんだか笑えた。
今度はちゃんと笑えた気がする。












気持ちは同じ

(俺の世界は元就を中心に回っている)

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