瀬戸内

□悲願
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辺り一面に、色あせた彼岸花が咲いていた。
鮮やかだった赤は茶色く変色し、美しいとは言えない。


そんな盛りを過ぎた寂しい花畑に、二つの影があった。

ひとつは我、毛利元就のもの、もうひとつは西海の鬼、長曾我部元親のものだ。

今日が幾度目なのかは忘れたが、我等は数多の戦をした。
しかしどの戦でも決着はつかなかった。
だからこうして今日も顔を合わせている。


「久しいな、長曾我部」

「おう!今日こそ決着つけようぜ!」


長曾我部はこれから生死をかけた戦いをする人間の顔ではなかった。
楽しそうに笑っている。
奴にとってこれは遊び感覚なのだ、きっと。


我は輪刀を構えて長曾我部を睨んだ。
だからと言って奴の顔が引き締まるなどという事はなく。
奴はあくまで笑顔を崩さなかった。


「それじゃ、いくぜ!」


しばしの沈黙を破って、長曾我部が先に動いた。
碇のような武器で、切り掛かってくる。
我も輪刀で応戦した。

奴の攻撃は、ひとつひとつが重かった。
その上奴は攻撃の手を休めず、我はかわしたり受け止めるのがやっとで、攻撃を繰り出す隙がない。
我は奴が疲れて隙ができるのを待っていた。


「どーした毛利ぃ!逃げてばっかじゃ勝てないぜ!」

「フン!力まかせでは勝てぬという事、教えてくれるわ!」


奴の攻撃を弾いて奴と距離をとった。

改めて奴の顔を見ると、相変わらずの笑顔だった。

それは狂気じみていると思った。
戦いが楽しいなどということは我には理解できなかったから。
何がそんなに楽しいのだ。


「…貴様は何故、我と戦う」

「あん?そりゃあアンタが強ぇからよ!」


我が奴と戦うのは我が毛利家の為、領地拡大の為。
それなのに何だこの鬼は。
我が強いからという理由のみで我と戦っているなどとぬかした。
強ければ、我で無くても良いのか。


「…それだけか」

「…?それ以外に何があるってんだ?」


その言葉は我を深く斬り付けた。

我は遊ばれていたのだ。


途端に馬鹿馬鹿しくなった。
奴と戦うことも、家のことも全部。
我が求められていたのは戦力のみ。
我個人のことなどどうでもよいのだ。
奴にそれだけの存在だと思われていたことがたまらなく悲しかった。


「我は…」


奴が攻撃を仕掛けた瞬間、我は攻撃も守備も止め、輪刀を手放した。
奴の攻撃を避けることもしなかったので、重い一撃をまともにくらった。
我の血で、色あせた花がまた色づいた。

倒れる瞬間、驚いた奴の表情が目に入った。
残念であろう、我が期待通りに戦わなくて。
戦いを楽しむ奴にとって、最悪の状況であろう。
楽しませてやるものか。


「毛利!今わざと…」

「あっけない我の死…失望したか」


奴は今まで見たことのない表情で我の顔を覗き込んでいた。


「違う、俺は、」


長曾我部は倒れた我を抱き起こそうとした。


「触る…な」


それだけ言うのがやっとだった。
戦うことだけが目的の低俗な奴に、触れて欲しくなかった。

我に触れた指がびくりと動いて離れていった。
何か言っているが聞こえない。

きっとふざけるなと我を罵っておるのだ。
そう思いたかった。

目を閉じると、痛みは遠退きすぐ楽になった。








辺り一面に、色あせた彼岸花が咲いていた。
鮮やかだった赤は茶色く変色し、美しいとは言えない。

そんな盛りを過ぎた寂しい花畑にあった二つの影は、一つになった。

さっきまで立っていた片方は、もう片方に抱えられていた。
抱えられている方は、人形のように動かない。
人形の方にぽたぽたと滴が落ちる。


「毛利、すまねぇ」


立っている方は人形の方を抱いたまま動かない。
否、動けないのだ。
そして抱えた人形の方に向かって語りかける。
彼には届いていないのに。


「戦いたいだけだなんて嘘」


鬼は、何度もごめんなとつぶやいていた。







乱世の理
想いはすれ違い、

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